ゲーリー・ソール・モーソン(Gary Saul Morson)とモートン・シャピロ(Morton Schapiro)の著書Cents and Sensibility(未訳)も、人間的側面を主題としている。モーソンはノースウェスタン大学の人文科学教授であり、シャピロは同大学の経済学教授である。彼らの主張では、経済モデルがうまくいかない場合、その原因は人間に対する理解不足にある。経済学は一般に、3要素を無視する傾向がある。すなわち、意思決定に関する文化の影響、人間の行動を説明するストーリーの有用性、倫理的な配慮の3要素である。人間は真空に生きているわけではないにもかかわらず、そのように扱うのは視野が狭く、有害でさえある。

 モーソンとシャピロが示す解決策は、文学である。人間について、社会科学者より洞察力の深い偉大な作家の作品を読むことで、経済学者の知恵が深まるはずだと、2人は提案している。経済学者が人間を抽象概念として扱いがちなのに対し、作家は具体的なディテールを掘り下げていく。モーソンとシャピロはわかりやすく説明するために、こう問いかける。「科学者が示すモデルやケーススタディが、トルストイの描いたアンナ・カレーニナほど鮮明だったことがあるだろうか」

 小説はまた、人間の共感力を伸ばすのにも役立つ。物語は、読者である私たちを登場人物の人生に没入させ、別人の立場からの世界を見せてくれる(多くの研究分野で、実務にあたっては共感力を高めよと教えているが、共感を訓練してくれるのは文学だけだ、とモーソンとシャピロは指摘している)。