1.実態を吟味する

 まず、自分が部下から厚い信頼を得ているという思い込みはいけない。部下が直面しているリスクと弱みを理解することで、信頼のレベルを読み取るべきだ。自社の慣行、方針、統制について吟味しよう。それらはリスクに寛容だろうか。部下の視点から方針を見つめた場合、その趣旨は「従業員との絆を強める」ことにあるのか、それとも「従業員から会社を守る」ことにあるのだろうか。

 自分自身の振る舞いについても検証してみよう。下記の質問リストが良いきっかけになる。いずれかの回答が「いいえ」の場合、部下からの信頼はあなたが望むほどではなさそうだ。

あなたのチームは「信頼されている」と感じているのか:マネジャーへの7つの質問

1.部下のスキルに自信を持っていることを、当人に明示しているか。

2.部下の心身の健康を気にかけていることを、当人に明示しているか。

3.部下には職務遂行能力があると思っていることを、当人に明示しているか。

4.部下の仕事に最も影響する物事について、当人に権限を与えているか。

5.部下にも影響が及ぶ意思決定をする際、当人に参加する機会を与えているか。

6.部下にリスクを取るよう奨励しているか。

7.いかに部下を信頼しているかが、自分の言動から当人に伝わっているか。


2.権限を(慎重に)移譲する

 相互信頼を育む責任は、マネジャー側にかかっている。つまり、部下の信頼を醸成するばかりでなく、相手への信頼感が着実に高まっていることを思慮深く伝えるべきということだ。部下の任務を適切に目配りし、リソースへの権限を付与する必要があり、その決定を後に覆してはならない。権限移譲においては、部下の失敗をある程度許容することも求められる。厳しい是正措置を取るよりも、失敗を学習促進の機会にすべきだ。

3.情報を共有する

 リーダーがリスクを取るという点でもう1つ重要な方法は、従業員とオープンかつ正直にコミュニケーションを取ることだ。マネジャーが情報の共有と意思決定に関する説明をしばしば渋る理由は、事前の漏えい、後々の批判、意見の衝突などを恐れるからだ。透明化は、たとえ困難な状況でも従業員を信頼して、真実を明らかにするのだというメッセージとなる。

 ある公共機関のマネジャーは、数年にわたってこの課題に直面した。予算が縮小の一途をたどるなか、能力給の判断をめぐってのことだ。彼は解決策として、予算の制約について、そして能力給制度における昇給基準について、詳細に説明した。能力給の決定を伝える前に、情報を開示したのだ。

 そのオープンな姿勢によって、査定における偏見への疑いが事前に回避されたばかりでなく、機密情報をめぐり従業員が信頼されているということも伝わったのである。

4.必要な変革を推し進める

 本記事の前半で、リスク回避志向の文化によってイノベーションが抑制されている会社に言及した。同社はこれを変える必要があると理解していた。

 そこで、ミドルマネジャーらで構成される新たな審査委員会を創設し、以前よりも少額の資金を1~2日以内にプロジェクトに割り当てるようになった。この権限拡大により、同社は全職位の従業員に信頼を伝えたのである。また、少額の資金を迅速に割り当てる過程で、経営陣は実験を奨励し、起こり得る失敗から学ぶことへの意欲を示した。

 つまり、同社は従業員とともにリスクを取ることに、より前向きになったということだ。

5.従業員の能力開発に投資する

 最後に、従業員の可能性に投資して、擁護者になりたいという意図を知らせれば、信頼が相手に伝わる。まずは部下のキャリア上の目標を理解して、そこに到達できるよう手助けしよう。結局のところ、マネジャーとしての成功は、自分が育てた部下たちの成功次第なのだ。

 マネジャーは部下への信頼の度合いを、意図せぬ形で示し、そのことに気づいていないかもしれない。相互信頼が持続する環境を築くには、信頼関係がどんな状況にあるかを読み取ることを学び、相手への信頼を明白に伝えるように心がけることが肝要なのだ。


HBR.ORG原文:Want Your Employees to Trust You? Show You Trust Them,  July 05, 2017.

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ホーリー・ヘンダーソン・ブラワー(Holly Henderson Brower)
ウェイクフォレスト大学スクール・オブ・ビジネスの准教授。同校インターンシップ・プログラムのファカルティ・ディレクター。信頼、リーダーシップ、効果的な意思決定について、営利・非営利の両組織を対象にコンサルティングと執筆を行う。

スコット・ウェイン・レスター(Scott Wayne Lester)
ウィスコンシン大学オークレア校カレッジ・オブ・ビジネスの教授。経営学を担当。リーダーシップ開発、信頼、コミュニケーション、多世代労働力について、執筆とコンサルティングを行う。

M. オードリー・コースガード(M. Audrey Korsgaard)
サウスカロライナ大学ダーラ・ムーア・スクール・オブ・ビジネスの教授。経営学を担当。信頼とリーダーシップ開発について、研究およびコンサルティングを行う。