●マインドフルネス瞑想は創造性とイノベーションを高める
数多くのエグゼクティブが瞑想を取り入れている理由は、ストレスが溜まってきたときのリセットに役立つと、わかったからだ。
研究によれば、マインドフルネス瞑想は、仕事の成果にポジティブな影響を数多く与える。定期的に行っていると、レジリエンス(回復力)が高まるほか、ストレスが低減し、感情をコントロールできるようになる。より前向きな見通しを立てる力が身につくため、挫折から立ち直りやすくなる。反射的な「闘争・逃走反応」のスイッチを切り、バランスの取れた判断をするために不可欠な、より思慮深いモードに入る能力を身につけるうえで役に立つのだ。
ダニー・ペンマンは著書Mindfulness for Creativity(未訳)の中で、瞑想などのマインドフルネス手法は、創造的な問題解決に必要な3つの必須スキルを向上させると主張している。
第1に、マインドフルネスは発散的思考のスイッチを入れる。言い換えれば、瞑想によって新しいアイデアに心が開かれる、ということだ。第2に、マインドフルネスの練習は注意力を高めるため、アイデアの斬新さや有用性に気づきやすくなる。第3に、疑念に囚われたり挫折に直面したりした場合に必要な勇気やレジリエンスを育む。イノベーションのプロセスには失敗や挫折がつきものなので、これは重要である。
●創造性を高めるには10~12分の瞑想で十分
マインドフルネス瞑想が短期間で創造性を高めてくれることを検証するため、また高まった創造性が組織内のアイデア創出にどう寄与するかをテストするために、オランダ・ロッテルダムのエラスムス大学で実験を行った。
私たちの関心は、これまでの研究とは異なり、たった数分の瞑想で創造性が高まるのか、という点にあった。129名の被験者(全員学生)を3つのグループに分け、「ドローンを使ったビジネス・モデルをできるだけ多く考え出す」という創造的作業をしてもらった。
最初のグループには、ブレーンストーミングを始める前に、個々人に10分間の音声ガイダンス付きマインドフルネス瞑想をしてもらった。2番目のグループには、10分間のニセの瞑想練習をしてもらった(心を解放して自由に考えるように指示した)。3番目のグループは何もせず、すぐにブレーンストーミングを始めてもらった。
3グループとも、考え出したアイデアの数はだいたい同じで、説明文の長さも似たようなものだった。大きな違いは、瞑想したグループの出したアイデアが、はるかに多様性に富んでいたことだった。瞑想を行わなかった2グループの各人が出したアイデアは少なくとも2つのカテゴリーに分けられたのに対し、瞑想をしたグループのアイデアは4つのカテゴリーに分類できた。
瞑想をしなかった2グループ中の最大のセグメント(合計人数の20%)に属する各人のアイデアは、5つのカテゴリーに分かれた(配達や撮影など)。それに対し、瞑想を行ったグループの最大セグメント(グループの21%)の各人のアイデアは9つのカテゴリーに分けることができた。ガーデニング(木を切る、花に水をやるなど)や防災(火事を消す)が含まれていたほか、妥当なもの(窓の掃除)からバカげたもの(キリンの餌やり)まで、幅広かった。
私たちは瞑想以外に、これらの違いを説明できる理由を探してみた。回帰分析においては、被験者がブレーンストーミングを楽しんだか否かなど、アイデアの柔軟性に影響を与えうる変数をいくつか考慮した。こうした瞑想以外の要因を差し引いても、他のグループのアイデアと比較して、瞑想したグループのアイデアは多様性が22%高かった。
また、短時間の瞑想は体を動かす運動と同様、心をよりポジティブでリラックスした状態にする場合が多いこともわかった。瞑想したグループでは、ほとんどの被験者がネガティブな感覚をあまり覚えなかった。特に、瞑想によって被験者の不安は23%、心配は17%、苛立ちは24%、それぞれ減少した。
筆者のチームは、こうした知見についてさらなる確証を得るため、オランダのある大規模研究組織のシニア・イノベーション・マネジャー24名を被験者として、第2の実験を行った。学生を対象とした実験と同様、エグゼクティブたちはまず12分間瞑想し、続いて「組織の中で垣根の少ない文化をつくるにはどうすればよいか」という課題について、個別にアイデアを考えた。その後、いくつかのグループに分かれ、さらにアイデアを出してもらった。
ほとんどの被験者は、瞑想によって雑念が払われ、目の前の作業により集中でき、独創的なアイデアを思いつくことができたと報告した。それは、結果にも表れた。あるアイデアは、マネジャーと従業員が1週間、職場を交換する(その後、その経験を社内報に載せ、元の職場にも報告する)というものだった。オランダのリアリティ番組にティーンエージャーが家族を交換するものがあり、それと似ている。他には、社内TED Talksのような動画アーカイブをつくり、さまざまな部署の優れたアイデアや科学者たちを紹介するというものだった。