VC資金は男性創業者に行きがち 

 女性経営企業は、米ベンチャー界において最も急速に伸びている部門だが、VCの出資を受けている割合は低い。バブソン大学の研究によれば、女性経営企業のほとんどは資金を女性創業者自身で賄うか、あるいは友人や家族の出資に頼っているという。

 これはスタートアップ全般にも当てはまることではあるものの、最近のデータによれば、米国でVCから出資を受けている企業は、「白人かアジア系の男性」が創業し経営している傾向が高い。実際に、VCから出資を受けた企業のうち経営チームに女性がいる割合は5%未満で、女性CEOがいるのはわずか2.7%であった。

 女性のなかでも黒人女性が企業オーナーとなるケースが最も急速に増えている。とはいえ、有色人女性がVCから出資を受けることはまれである。2015年には、有色人女性が創業した企業へのVCの出資はたった0.2%であった。いくつかの調査によれば、女性オーナー企業が急速に増えているにもかかわらず、VC出資における男女格差は2016年にはむしろ拡大している。これは契約数と出資額の双方に関して、である。

 多くの意欲的な女性起業家にとって、このような外部からの投資の欠如は大きな障壁となっており、テクノロジー部門では特にそれが顕著である。

 VC出資企業における女性経営企業の少なさについては、多くの説明がなされてきた。単に女性がVCの出資を求めていないからだ、と論じる向きもある。女性創業者のロールモデルが少ないから、起業資金の出資を求める女性も少ないのだ、と反論する研究者もいる。

 これらの説明はみな、女性に原因を求めている。だが調査からは、VCそのものが元凶であることが示唆される。女性が実際に出資を求めても、事業コンセプトが従来の「女性的」な分野(ファッションや子供用品など)に収まらない場合には、ベンチャー投資家は前向きな反応を示さないという。

VCは、女性創業者にもっと出資してはどうか 

 スモール・ビジネス・アソシエーションは、男性創業者と女性創業者に対する出資格差を調べた結果、次のような推論を下している。

 VCは、リスクを避ける傾向にあるため、馴染みのある人的ネットワークの中で投資するのだ。VC界には男性が圧倒的に多く、男性が持つネットワークは男性ばかりで占められがちである。この男女構成にしたがって、VCはみずからに似た創業者に出資する傾向にあるわけだ。

 このことが実際の状況にどう表れているかを調べたテッククランチは、次のような結果を報告している。経営年数、投資活動、出資規模に基づくグローバルVC上位100社のうち、38%には女性の共同経営者がいた。さらに対象サンプルを広げ、自社データベース内の大小2300社のVCを調査したところ、これら企業の常勤経営者のうち、女性はわずか8%であったという。

 2つの数字の差から提起される推論は、女性の投資パートナーの存在が、上位100社の実績に寄与しているかもしれないということだ。

 他の研究からも、女性の共同経営者がいるVCは、そうでないVCと比較して、経営チームに女性がいる企業に投資する傾向が2倍以上高く(34%対13%)、女性CEOに投資する傾向は3倍以上高い(58%対15%)ことがわかっている。したがって、VCに女性の投資パートナーがいないことは、社内の同質性が問題となるのみならず、出資案件の選択にも重大な影響を及ぼすのだ。

 人的ネットワークの重要性は、シミュレーション実験でも示されている。ある実験では、初期段階の出資を求めている女性が、男性のベンチャー投資家と実際に接触して、つながりを築いた後に依頼する場合、(見知らぬ状態で案件を検討される場合よりも)投資は劇的に多かった。人的つながりが、女性起業家に関する不確かさを軽減する機能を果たしたのだ。VCとの人脈を持つことは男性起業家にももちろん役立つが、女性が受ける恩恵のほうが著しく高かった。

 とはいえ、たとえ人脈や技術面の知識・経験を持っていても、女性起業家はやはり、自身の力ではどうにもならない部分で不利にあると思われる。実験室環境と実際の投資家向けプレゼンテーション大会において、プレゼンの内容が同じであっても、投資家は女性よりも男性の起業家による売り込みを好んだ

 他の研究でも、VCは男性起業家と女性起業家に対して異なる言葉を用いること、そして、異なる種類の質問を投げかけることが明らかになっている。このことは結果的に、受け取る投資額に影響を及ぼしている可能性がある。

 人には無意識の偏見がある。それが、ある職種や分野の適性者はこうあるべきだという考え方に影響を及ぼしている。この知見に照らし合わせれば、上述してきた発見は驚くほどのことではない。ある種の人物像が、特定の職種や分野に関連付けられている場合、その基準からはみ出ている人、つまりどこかしら「適性が欠如」している人は、疑いの目で見られ、みずからの価値を証明するために他者よりもいっそう努力をしなければならない。

 そして、私たちが現在持っている「成功する起業家」のイメージは、主としてメディアと大衆文化によって形成されたものであり、男性にとっての理想に即しているのだ。