●アクティビストは何をするのか
20世紀における企業乗っ取り屋は、21世紀に入るとその名をアクティビストに変えた。「隠れた価値を解き放ち」「株主価値を高める」という決まり文句。そして、1200億ドルもの資産。
それらを携えたトライアンのような物言う投資会社は、GEやP&Gのように株価が業界平均を下回っている(または、バランスシート上に巨額の現金が眠っている)企業を探すようになった。そうした上場企業の株式を購入し、経営陣に株価を上げるよう働きかけるのだ。
21世紀のアクティビストの大きな特徴は、主導権を握るために株式を大量に購入する必要がないことだ(先に述べた通り、トライアンが持つGE株やP&G株は、全体のわずか1.5%にすぎない)。すなわち、アクティビストは大勢の株主の投票行動に影響力を行使することで、企業をコントロールするのである。
21世紀における上場企業の株主のほとんどは、機関投資家(銀行、保険会社、年金運営機関、ヘッジファンド、不動産投資信託会社、投資アドバイザー、基金、投資信託会社)であり、個人投資家ではない(2015年時点で、一般的なS&P500企業では、大株主上位10者が全株式の約半数を保有)。機関投資家の発言力を増すさらなる要因として、個人株主は議決権を10回のうち3回しか行使しないのに対し、機関投資家は9回行使する(P&Gの場合は、株式の40%を小規模投資家が所有しており、2017年のトライアンとのプロキシー・ファイト(委任状争奪戦)ではP&Gを助けている)。
2001年のITバブル崩壊と2008年の金融危機を経て、かつては長期的な視野で株式を保有していた従来の投資家たち(公的年金基金、機関投資家、資産運用担当者)は、短期的な儲けに関心を注ぐようになった。すなわち、これまで経営陣の味方であった取締役会は、もはや経営陣を守るのが当たり前の存在ではなくなったのである。イメルトの場合のように、彼らはアクティビストの側に立つことさえありえるのだ。
アクティビストには1つの単純な目的がある。自分たちの投資の価値を上げることだ。そのためにはまず、投資先の経営陣に既存の戦略を変えさせる必要がある。取締役会の席を得ようとして、プロキシー・ファイトの脅威を間接的にちらつかせるか(GEの場合)、もしくは直接的に仕掛ける(P&Gの場合)。
次いで、経営陣への提言を公に発表し、株価を上げるために必要だと考えるアクションを示す(先述のトライアンによる「GEで変革が進行中……だが、誰も関心がない」が例)。
その後、金融メディアとブログを通じて、自身のメッセージを機関投資家に拡散する。それでも思い通りにいかなければ、プロキシー・ファイトを仕掛け、株主投票への影響力を強めて、取締役会の交代を図る。最終的には、経営陣さえ入れ替えようとするかもしれない。
今回のGEに対するトライアンのように、アクティビストの活動が成功した場合、取締役会の席を得て、CEOと経営陣を刷新できる。そして、みずからの投資価値を上げるための計画や戦略をGEに実行させる。
そこには、自社株の買い戻し、配当金の引き上げ、コスト削減に向けた人員削減、工場の閉鎖、好調な事業部門の分離、不採算事業の売却、資産剥奪(会社を買収後に資産を売却して閉鎖すること)などが含まれる。加えて、トライアンが提言したように、自社株買い戻しのために負債を増やすことも挙げられる。
なお、アクティビストは全事業群の保持よりも部分的な売却に価値を見出すことが多く、場合によっては全社ごと売りに出すことさえある。
アクティビストの乗っ取りには、メリットもある。停滞している会社や、スタートアップ勢がもたらす破壊的変化を無視している会社の、尻を叩く効果になるからだ。2016年のGEの粗利益率は21%、対してユナイテッド・テクノロジーズは28%、シーメンスは30%だった。この数字を見れば、GEは少なくとも戦略の見直しを迫られてもやむを得ない(まさに現在、それが起きているが)。なお、2017年におけるGEの最大の問題は、電力事業での大幅な収益減だ。
GEの新CEOは、ビジネスの原点回帰に主眼を置いている。そして、大々的なコスト削減をまずは目に見える形で示すために、社用ジェット機と社用車を廃止し、豪華な新本社の建設計画を延期した。
しかし、アクティビストが経営を掌握するデメリットは、その目的が長期的な投資ではないことだ。どんな戦略的取り組みであれ、長期的なものならば、彼らは廃止することが多い。短期的なコスト削減は、従業員の賃金、雇用、そして長期的なR&D投資に直接影響を及ぼす。最初に失われるのは、R&Dセンターとイノベーションへの取り組みだ。