●では、CEOはどうすべきか

 上場企業のCEOに必要なのは、取締役会と機関投資家からの直接または間接的な声を知ることだ。

 アマゾン、テスラモーターズ、ネットフリックスといった大手上場企業は、投資家の想像力を魅了することで、利益ではなく売上高およびユーザー数の増加に注力できている。創業約20年のアマゾンは、売上高を飛躍的に伸ばしながらも、利益はごくわずかだ。こうした企業の投資家たちは、ユーザー数の増加に対する投資が長期利益を生み出すと考えている。

 なお、近年新たに上場するテクノロジー企業は、議決権種類株式(デュアルクラス・ストック:創業者が一般株主より多くの議決権を持つ)を採用している。こうすることで、アクティビストから会社を守るとともに、四半期決算よりも長期的な利益を優先できるようになる。

 だがGEの中核事業には、そうしたテクノロジー企業が展開するオンライン事業のような長期的尺度がない。どんなイノベーション施策も、リーン方式であろうとなかろうと、電力事業の悲惨な業績を救うことはできなかったのだ。

 企業と政府機関は、イノベーションは明確なパイプライン(一連の秩序立ったプロセス)がなければ単なる「イノベーションごっこ」で終わることに気づき始めている。そのパイプラインは、スピードと切迫感をもって運営する必要があり、結果は売上高と利益へのインパクトによって評価すべきだ。

 いまにして思えば、GEの問題はファストワークスではなかった。プレディックス・クラウドの立ち上げには苦労したが、インダストリアルIoTとリーン方式への投資は、将来的に見返りをもたらすだろう。

 しかし、将来のイノベーションの成果が伝統事業の不手際を相殺するわけではない。GEの取締役会は、自社の利益率と株価に満足せず、将来性に関するウォール街の見方にも不満だった。同社が進むべき道は、アクティビストとのプロキシー・ファイトという、差し迫る脅威によって決定づけられたのである。


HBR.ORG原文:Why GE’s Jeff Immelt Lost His Job: Disruption and Activist Investors  October 30, 2017

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スティーブ・ブランク(Steve Blank)
スタンフォード大学の非常勤教授、コロンビア大学の上級研究員であり、カリフォルニア大学バークレー校でも教鞭を執る。ハイテクスタートアップ8社に共同創業者または初期メンバーとして携わる。全米科学財団(NSF)のイノベーション部隊の創設や、教育プログラムのHacking for DefenseおよびHacking for Diplomacyの開講も支援。