ナイキはなぜ成功できたのか

 現在のナイキの成功を知っているから、安心して読み進められるものの、株式上場までのナイキの物語は波瀾万丈だ。オニツカとの関係や資金繰りの問題のみならず、生産工場の問題、米国関税局からの請求…。そのたびに人のつながりに助けられたり、仲間の頑張りがあったり、時には相手企業の書類を盗み見るなどの手段も使ったりして難題を切り抜けていく。小説よりもスリリングな展開で、読者を楽しませてくれる。

 改めて、ナイキに成功をもたらしたものは何だったのか、と考える。シューズを天職と考え自分の素晴らしいアイデアで負けたくない、というナイトの強い意志はもちろんのことだが、人との出会いにもあったように思う。まず、共同創業者となるビル・バウワーマン。ナイトの大学時代の陸上の指導者であった彼は、伝説のカリスマコーチで、シューズに対しても造詣が深かった。

 また正社員第1号となるジョンソンや第4号のウッデル。さらには会計士のヘイズや弁護士のストラッサーなど。彼らはみずからを「バットフェイス(ダメ男)」と呼んだが、率直に言って、皆ちょっと癖のある人物で、どこかちぐはぐに思える。ナイトも言うように「私たちは何とも雑多な集まりで、救いようのないミスマッチに見える」のだが、実は「相違点より共通点の方が多く、だからこそ目標に向けて一丸となって努力でき」たのだ。ナイキを研究したハーバード・ビジネス・スクールの教授たちは、「会社の経営者が戦術や戦略を考える人物であれば、会社の将来は有望だが、君は運がいい。パットフェイスの半数以上がそれをやってくれるのだから」と評したそうである。

 本書の中心は1980年までだが、ナイキの物語はその後も続く。HBR1992年7‐8月号にはナイトのインタビューが掲載され、マーケティング戦略について語っているが、この邦訳の抄録がDHBR 2007年11月号「偉大なる経営論【企業編】PartⅡ」に収められている。興味のある方はどうぞご覧いただきたい。