IoTで集まる情報を視覚化し
リアルな世界に重ねるAR
例えば、ロボットの分野です。NHKの番組『クローズアップ現代+』で11月30日に放映された「ロボット大国・日本の逆襲~起死回生をかけた闘い~」(NHKのウェブサイトでは同コンテンツを有料で視聴できます)では、東京大学大学院特任准教授の松尾豊氏が、ソニーの自律型エンタテインメントロボット“aibo”(アイボ)の可能性を、前述のドローン・エコノミーと同様のデータ取得・分析・活用の面で解説していました。そこに、苦境にある日本企業にとっての逆襲のチャンスがある、と。
また、この番組では、ソフトバンクのロボット事業も紹介していましたが、本稿の文脈でクローズアップすれば、同社のポイントは、ベンチャーとのスピーディな提携です。DHBR本誌で取り上げていますコマツと同様なのです。
コマツはCMO(最高技術経営者)主導で社外の技術開発を探索し、米シリコンバレーでドローンのベンチャー企業と出会い、即座に提携を決めます。日本のベンチャー企業であるカヤックとも、ARを土木現場で活用する実証実験を今夏から進めています。本誌では、技術経営の考え方を大橋徹二社長にインタビューしています。
冒頭で紹介しましたポーター氏の論文では、今はまだIoTで集まる情報を十分に活用できずにいるとした上で、これらの情報を視覚化し、物理世界に重ね合わせる技術のARが、この課題を打破すると論じます。
例えば自動車産業での活用事例として、ARを使ってCADモデルを試作品に重ね合わせることで、整合性チェックの作業スピードが従来比5~10倍になることを提示しています。近い将来には、AR機能を搭載したスマートグラスが加速度計やGPSとともに製品設計の情報源として機能し、特定の修理手順がどれくらいの頻度で起きるかなどの情報が提供される、と解説しています。
そして、MIT教授のエリック・ブリニョルフソン氏は、AI(人工知能)が蒸気機関や電気と同じような汎用技術になる日が遠からず訪れ、「ほぼすべての業界で、ビジネスモデルを一変させる」と論じます。
「市場の成熟」、「時代の閉塞感」などと言われて久しいですが、今号に登場する3人のビジョナリー(ポーター氏、アンダーセン氏、ブリニョルフソン氏)は、技術革新が新たな価値を創造し、アウトプットを増大させる、「新・産業革命」が起きることを見通しています。(編集長・大坪亮)