アプローチ1 必要以上に特別扱いされるときは疑おう
最初に関係を築くとき、マニピュレーターはまだ本性を現さない。むしろ多くの場合、協力者とか友人であるというイメージを打ち出す。弱みがどこにあり、どれくらい利用できるかを品定めするために、相手に近づく必要があるからだ。マニピュレーターは、「十分に教養と自信があって自立しているのは誰か、また歓心を買いたがったり、恥をかきやすかったりするのは誰か」と、従業員たちを見極めることに長けている。
力のある同僚や上司があなたに関心があるように見えれば、胸が躍るものだ。だが、その人物にまつわる恐ろしい話を聞いたことがあるなら、要注意である。特に、あなたをお気に入り扱いする一方で、自己嫌悪に陥らせるような当てこすりをしたり、他の人たちと話すときにあなたをこき下ろしたりする場合は気をつけよう。お気に入りでいたいのなら、あなたの利益に反する行為をするよう、プレッシャーをかけてくるときも注意したほうがいい。
私がコンサルタントとして協力したある経営幹部の女性は、「彼女の支持者であり、仲の良い友人だ」と公言する同僚から傷つけられていた。この同僚から絶えず欠点やミスを指摘され、当初は自分のためと思えたものの、次第に自信を失っていった。やがて自分自身の直感を疑い始め、みずからの信念を守るよりも、マニピュレーションに長けた同僚の相棒であるかのように振る舞い始めた。
そして、何が起こっているのか気づいたころには、すでに自分をこの同僚から切り離すことはできなくなっており、かなりの威信と影響力を失っていた。他の人からの信頼も、自分自身に対する自信も揺らぎ、彼女は自分の立場や影響力を取り戻すことができないまま、結局は退職することになった。
アプローチ2 あえて公の前で小さな対立をする
時には、現場でマニピュレーターに対立することが、その工作を暴く唯一の方法になる。
だが、自分のほうが地位的に下の場合、これを実行するのは困難かもしれない。上司の立場であっても、当然すべきことやフェアプレーから明らかに逸脱している場面に遭遇すれば、組織に大きなダメージがなされているとわかりつつも、あっけにとられて信じられないかもしれないし、言うべきことをとっさに見つからないかもしれない。しかし、勇気と機知を持ち合わせて介入する人がいれば、マニピュレーターには彼らの行為が見抜かれたと警告することになり、また傍観していた人々には、通常通りにビジネスを進めながらも、介入して他の人たちを守ることができると示すことになる。
私が出席したあるクライアントの会議では、経営陣を前にして、1人の経営幹部が電話による報告を行っていた。すると、極めて利己的であり、マニピュレーションに長けているとの評判があるバイス・プレジデントが、驚いた様子で眉を上げたり、何度も首を横に振ったり、肩をすくめたりし始めた。電話で報告中の同僚が言っている内容に同意していないこと、時には、なぜそんなことを言うのか理由もわからないことを、会議室にいる仲間たちに示そうとするかのようだった。まったく一言も発しないままで、である。
電話の向こうから報告中の経営幹部は、自分の信頼性と報告内容が軽んじられているとは思ってもいない。私はマニピュレーターに直接、こう尋ねた。「何か言い足したいことがあったのではないですか。いまの報告に、あなたは強く反対されているように見えました。結論か、あるいは詳細の一部に異論があったのですか。それとも報告に満足していますか」
会議室にいるバイス・プレジデントは、「異論は一切ない」と否定した。それでも、私に正面からそう聞かれたことで明らかに居心地が悪くなり、もはや我が物顔に振る舞ったり、電話の向こうの同僚に非難を浴びせたりすることができなくなった。一方、電話で報告をしていた幹部は、同僚から自分が卑劣な手段で批判されていたことを知ったのである。
アプローチ3 黙秘したり、卑劣な行為を見て見ぬふりをしたりすることを拒む
代わりに、はっきりと率直にものを言い、大義を堅持しよう。陰謀を企むマニピュレーターは、あなたを信頼できるインサイダーであるかのように扱うかもしれない。あたかも、「大局観と分別を持ち合わせて、何が重要であるかを理解できるのは、あなたしかいない」と言わんばかりに、他人の欠点や失敗に関するちょっとした情報を、あなたに流すのだ。
このような言外のへつらいに、騙されてはいけない。意図を明らかにするために、詳細や具体的な情報を求める必要がある。「あなたが言おうとしていることが、よくわかりません。なぜこの話を私にするのですか。私に何をしてほしいのですか」
あるクライアント企業で私が一緒に仕事をしたあるリーダーは、直接の対立はできれば避けたいと考え、自分では伝えたくないメッセージを、私を含めた周囲の人に伝えてもらおうとした。彼女が他の人を隠れみのにして、間接的に批判するのを黙認する代わりに、私はこう言った。「チーム内の対立を処理するジェームズのやり方を、あなたが気に入っていないことは明らかです。一度、あなたとジェームズと私の3人で話し合う場をもちましょう。あなたが懸念していることをジェームズに説明し、それを受けてジェームズがチームをどう管理していけばいいか、私が相談にのりますから」。
彼女はいまでは、自分自身の行動パターンを理解し、そこから脱皮するためのサポートを受けている。そのため、困った事態に陥ったときに他人任せにすることが、以前よりもはるかに少なくなっている。
あなたがマニピュレーターよりも上の地位であれば、最も効果があるのは、速やかに是正措置の綿密な計画に着手することだ。上記のようなアプローチを用い、マニピュレーターが不適切な癖を直すまで、さもなければ、あなたがこの部下を辞めさせるまで、行動に関して具体的なフィードバックを与えることである。
マニピュレーターと同じ権限や影響力を持たない場合は、上記3つのアプローチを用いれば、自己防衛の役に立つ。そのうえ、あなたが望むのであれば、いまの組織で仕事を続けられ、その間に、自分自身にも、組織の全メンバーにも、マニピュレーターが及ぼす悪影響を最小限に抑える助けにもなる。
HBR.ORG原文 How to Work with a Manipulative Person, November 06, 2017/
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リズ・キスリク(Liz Kislik)
コンサルタント。フォーチュン500企業から全国的な非営利団体、家族経営企業に至るまで、さまざまな組織が抱える難題の解決に一役買っている。ニューヨーク大学およびホフストラ大学で教えてきた。また最近、TEDxBaylorSchoolで講演も行う。彼女のウェブサイトでHow to Resolve Interpersonal Conflictsを無料ダウンロードできる。