●専門家のアドバイス
面接の過程では、目標はただ1つ、内定をもらうことだった。それを手にしたいま、仕事と会社が自分にピッタリ合うかを評価する必要がある。
とはいえ、これは必ずしも簡単なタスクではないと、エゴンゼンダーのシニア・アドバイザーであり、 It's Not the How or the What but the Who(未訳)の著者でもあるクラウディオ・フェルナンデス・アラオスは言う。新しい職場になるかもしれないオフィスには、まだ数回しか訪ねていないだろうし、同僚になる可能性がある人たちと話したときは、誰もが行儀よく振る舞っていたに違いない。「面接は結局、2人の嘘つきの会話なのです」とフェルナンデス・アラオスは説明する。
英国を拠点とするキャリア・ストラテジストであり、How to Get a Job You Love(未訳)の著者でもあるジョン・リーズも、これに同意する。会社と従業員についてさらなる「デューデリジェンス(資産の調査活動)」をして、働きたいと思える職場かどうかを確認することが重要だと、リーズは指摘した。目的は「会社の実態を把握して、隠し事がどこにあるかを探し当てること」だとも言う。その方法をいくつか紹介しよう。
●同僚になるかもしれない人たちの話を聞く
おそらく、あなたは就活中に会社の調査をしているはずだが、決断のときが迫っているいまこそ、全力を注ぐ必要がある。まずは、同僚になるかもしれない人たちから始めるべきだろう。「できるだけ多くの人と話すといい」とリーズは言う。特に、「仕事上、重要な関係」を結ぶであろう同僚について知ろうとするといい。
話す内容は「ちょっとした雑談でかまいません」とリーズは言う。「たとえば、こんな質問をするといいでしょう。いま、どんな仕事に取り組んでいるのか。達成したいことは何か。その前に立ちふさがっているものは何か」。相手の答えから実態が明らかになるだろう。「問題は市場の要因か、経済か、CEOか、あるいは社内の陰口か」。話している相手がどんなタイプの人か、よく観察するといい。「長年勤務している従業員の中に、有能でやる気のある人がいれば、それはいい会社だという印です」とリーズは言う。
話を聞く際、あなた自身の姿勢も重要だ。「ポジティブで楽観的であると同時に、シニカルな考え方をすべきです」とリーズはアドバイスする。ただし、懐疑的な態度やネガティブ思考は、いっさい表に出してはいけない。「内定を受けて嬉しく思っていて、まもなく一緒に働けることに胸躍らせている、と伝える必要があります」
●トライアルをする
チームを組むかもしれない人たちと数時間過ごしてよいかと、尋ねてみることには価値があるとリーズは言う。オフィスに顔を出し、グループ会議かブレインストーミング・セッションに参加するのだ。そうすれば、チームメンバーが互いにどのように関わり合うか、日常生活がどのようであるか、そして自分がうまく溶け込めそうか、感触が得られるだろう。
「メンバーたちがあれこれとアイデアを出し合う様子」を観察するよう、リーズは勧める。「互いをサポートするチームなのか、あるいは妨害し合う傾向はないかを見るのです」。目的は、その組織が「極めて協力的な文化を持っているのか、それとも個人主義の傾向が強い文化なのか」を見極めることだとフェルナンデス・アラオスは言う。
ただし、トライアルで現実のすべてがわかるわけではないと、肝に銘じておくべきだろう。「たいていの人はいいところを見せようとします」とアラオスは警告する。また、たとえあなたは採用が決まっていても、同僚になる可能性のある人たちは、あなたの一挙手一投足をじっと観察していることを忘れてはいけない。トライアルは「相手にとっても、あなたの振る舞いを観察する絶好のチャンス」なのだと、アラオスは主張する。
●上司を知る
仕事の満足度は、上司との関係にかかっているとも言える。特に、スタートアップ企業や小規模な家族経営の私企業の場合、経営幹部とうまくいかない従業員は「死んだも同然」だとアラオスは言う。したがって、実際に働き始める前に、この重要人物を動かすものが何であるか、また経営幹部のもとでどのように働くことになりそうかについて、できるだけ深く理解する必要がある。
上司になるかもしれない相手とは、「組織が目指すべきビジョンについて」じっくりと話し合う機会を持つことをリーズは勧めている。「これから先のことを思い描くべきです。『この会社では成功とはどのように定義されているのでしょうか』『6ヵ月後の面談で私がどうなっていると理想的でしょうか』といった質問を投げかけるのです」
上司になる可能性のある相手がこうした会話から尻込みし、あなたをより知ろうともしないようなら、それは「危険信号だ」とリーズは言う。「相手はすでに、あなたに飽きている証拠です」
●外部情報筋の話を聞く
現在の従業員および上司になる可能性のある人と話すことに加えて、「舞台裏」の調査も必要だ。「その組織と文化について、最近の客観的で公正な知識を持つ人々」と話をするといい。リーズはそう指摘する。
あなたのネットワークを活用して、元従業員やコンサルタント、会計監査人、弁護士、請負業者、サプライヤーなど、この組織を知っている人々を探し出すとよい。そして、お茶でもしませんかと誘い出して、質問を投げかけるのだ。あなた自身もオープンな態度でいるほうがよい。
リーズは「なるべく全体像を知りたいのです」と説明するとよいと言う。「そのうえで、次のようなことを聞くとよいでしょう。この組織は仕事相手としてどうか。どの分野で成功しているのか。どんなタイプの人が好成績を上げていて、どんなタイプの人が辞めていくのか。可能であれば離職率を尋ね、あなたの前任者に何があったかを聞き出すといいでしょう」
予定されている統合や戦略の変更など、「会社が直面している課題」について尋ねることをアラオスは勧めている。それを知ることで、この先いつか経験するであろうフラストレーションに対する免疫にはなるというのである。
●いまの内定に囚われずに考える
アラオスによれば、検討中の雇用契約の枠に囚われず、会社にどんなチャンスが用意されているかを知ることも重要だという。可能性のあるキャリアパスについて、雇用担当に相談すべきだ。「キャリアを重ねることで、他の部署や他の職務に異動できるかどうかを尋ねるといいでしょう。また、教育研修の機会についても尋ねる必要があります。そして、会社がどんなタイプの有益なプログラムを提供しているかを見つけ出すのです」。
ただしリーズは、人事部の一般社員とは話さないほうがよいとアドバイスする。おそらく、有用な情報はあまり得られないからだ。「結局、言葉巧みに売り込みを受けるだけです」。この段階では、「組織のセールストークに対して、健全な不信感を抱く必要があります」
●内省的になる
手に入る限りの情報がそろったら、自分と対話する時間だ。新しい組織は、あなたが今後生き生きと働き、やりがいのある場かどうかを考えてみよう。リーズは、次のように自問することを勧めている。「この職場にどのように溶け込めるだろうか。この組織が達成しようとしていることに貢献するには、自分のスキルをどのように活かせばよいか」
必要な情報がすべてそろうことなどなく、また、分析マヒに陥らないよう気をつけたい。「最後は勘、というケースも多々あります」とリーズは言う。「自分の判断を信頼して、決定すべきときが訪れます」。大丈夫、それほど恐ろしいことではない。リーズによれば、「どんな決定も、8割方正しいものです」 。
●覚えておくべき原則
やるべきこと
・ポジティブかつ懐疑的な姿勢を身につける。
・自分のネットワークを駆使して、組織を知っていて、組織について率直な真実を述べてくれる人を見つけ出す。
・上司になる可能性のある相手を知る機会を得るために、特別な努力をする。仕事の満足を得るには、上司との良好な関係が絶対不可欠である。
やってはいけないこと
・会社でトライアルをするというアイデアを軽視する。トライアルは、あなたが一員になる可能性のあるチームがどんなふうに働き、どのように意思決定しているかを知るのに有効だ。
・危険信号を無視する。上司があなたを知りたいとも思っていないように見えたら、それは悪い兆候だ。
・分析マヒに陥る。代わりに、自分の判断を信頼して決定するといい。