最新号は「なぜ、特定の商品が長期間、売れ続けるのか」というテーマを、「顧客の習慣」という面から分析しています。最新の行動科学によれば、人の脳は楽をしたくて、商品を簡単に選んでも間違いがないように特定商品の買い物を習慣化するとのこと。この習性が競争優位を高める上で重要なカギとなります。

顧客の習慣をどのようにして
自社の競争優位に結び付けるか

 特集の第1論文は、マーケティングの通説への問題提起です。

 顧客が自社商品に飽きないよう、あるいは、他社商品に流れてしまわないよう、企業は常時、商品の改良や新たな開発に時間と資金を投入しています。しかし、最近の行動科学の研究成果によれば、顧客はそうした変化を好むわけではなく、本当は、馴染みがあって、気軽に買っても間違いのない商品を求めているとのことです。

 したがって論文では、企業が競争優位を持続するためには、自然と自社商品を買ってしまう習慣を、顧客につくってもらう必要があると主張し、そのための4つの方法を解説しています。

 筆者は、かつて低迷したプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)の業績を復活させた元CEOのアラン・ラフリー氏と、経営学の巨匠ロジャー・マーティン氏(元トロント大学ロットマンスクール・オブ・ビジネス学長)で、とても説得力があります。

 この論文とは異なる見方を提示するのが第2論文で、筆者は不確実性の高い事業環境での戦略を研究する気鋭の学者リタ G. マグレイス氏(コロンビア大学ビジネススクール教授)です。

 技術やビジネスモデルに革新が起きると、根強い習慣も変化すると指摘します。そのうえで、習慣の維持策と商品の革新策をいかにバランスさせるべきかについて提言します。

 実際、優れた経営者は顧客の習慣について、どう考えているのでしょうか。3つ目の論考として、レゴという長い歴史と人気を誇る玩具メーカーと、家計管理ソフトウェアを開発して大ヒットさせた企業インテュイットの経営トップ2人をインタビューしています。

 レゴは子どもたちに強い愛着を持ってもらうため、確固たる戦略を実行しています。まずは簡単なキットで楽しんでもらい、徐々にその遊びを習慣化し、生活の一部になるように仕向けることで強力な競争優位を築くのです。

 一方、インテュイットは、人々の習慣をより効率的にする製品を開発して成功したのですが、今日では習慣を不要にする製品を開発しています。矛盾する開発の方向性ですが、実はともに、暮らしをより楽にする開発であり、人々をじっくり観察したことでその正当性がわかったと言います。