1.即時性による敏捷性の実現

 敏捷性とは、機会と脅威に対応して素早く正しい行動を取ることだ。機会や脅威(顧客、競合企業、サプライヤー、従業員、監督機関、パートナー企業など)の生じる場所が事業部門レベルであり、それらとの接点が部門ごとに明らかに異なる場合には、対応する業務(販売、調達、採用、規制関連業務など)と適切な執行責任を、事業部レベルに担わせることは道理にかなう。

 たとえば、インドとインドネシアでは、監督機関への対応法は大きく異なる。分権化によって時間と場所の即時性が高まり、敏捷性がもたらされるのだ。

 2.コンプライアンスによる信頼性の実現

 業務によっては、事業部間で共通のルール(方針、基準、手法、手順、システムなど)を設けることが望ましい、または必要なものがある。

 給与・福利厚生の方針、商品デザインの基準、品質保証の方法、不正報告の手順、財務報告システムなどを考えてみよう。これらのルールは、事業部群を会社全体の目標と連携させ、ビジネスをいっそう予測可能にするためにある。したがって、組織内のいずれかの部門が監督役を担わなければならない。ルールを定め、従業員を適切に指導し、ルールが遵守されているかどうかを監視するのだ。

 この役割は通常、集権的な部門に割り当てるのが理にかなっている。いくつかの業務については選択の余地すらなく、中央集権的な独立部門によって、法律や規則に沿って実行されなければならない。

 たとえば、内部監査や労働安全管理全般、または銀行の危機管理などを考えてみてほしい。バーゼルⅢ規制の枠組みでは、銀行の危機管理を担う職能には「最高リスク管理責任者(CRO)の指揮下で、十分な地位、独立性、リソース、および取締役会へのアクセスがなくてはならない」と定められている。

 3.共同化による効率性の実現

 一部の業務については、集権化の妥当性がきわめてわかりやすい。集権化された部門を本部とし、業務をそこに一本化させれば、各事業部が個別に取り組むよりも経済的になる。こうした効率化によるメリットは、さまざまな要因によって生じる。

 ●伝統的な規模の経済
 同じ部署により多くの同一業務を任せれば、継続性、標準化、専門化、レバレッジ、生産性につながる。財務とIT調達は、その好例だろう。

 ●最小効率規模
 業務によっては希少な専門知識や設備を必要とするが、それらに対する各事業部の需要は時とともに変わる。その場合、各部門に専門家を配置するよりも単一部門にまとめたほうが効率的だ。たとえば法務、税務、テクノロジーの専門家や、高額な試験設備などである。

 ●重複の回避
 異なる事業部門でも、共通のニーズがあり解決方法が(ほとんど)同じであることは少なくない(新入社員の研修マニュアル、設備性能の監視機器、CRM関連ツールなど)。したがって、これらの解決方法を各部門それぞれに生み出すのは不経済だろう。

 4.分離による永続性の実現

 業務によっては、事業部門の裁量に任せていると、いっこうに達成されないものがある。特に顕著なのは、会社の長期的な健全性には不可欠だが、短期的には事業部門の利益にならないような取り組みだ。そのため、現場・前線の業務から十分に離れた中央部門が必要となる。下記はいくつかの具体例だ。

 ・メリットが不確実かつ短期的には生じないようなプロジェクトへの投資(画期的なイノベーションなど)

 ・全員が参加しなければメリットが得られない取り組みへの投資(ナレッジ・人材のマネジメントなど)

 ・部門横断的な調整――選択肢の比較検討や優先順位の決定など――を伴う活動(製品ポートフォリオの計画など)

 ・負けを認め、手を引く決断(製品の撤退など)

 ・自社の専有資産(ブランドや資本など)に関する取り組み

 あらゆる企業に適した組織構造など存在しない。もちろん、企業を取り巻く環境の変化や戦略の優先順位の変更は、組織の組み立て方に影響を及ぼす。ただし、敏捷性、信頼性、効率性、永続性という大事な特性を得るために、必ずしも組織図を大胆に変える必要はない。たいていの場合、抜本的な再編まではしなくても実現できる。

 たとえば、中央所属のスタッフを事業部群に分散配置する、本社に事業部門との連絡窓口を常設する、複数事業部から人を集め臨時の特別チームを立ち上げる、等のさまざまな方法があるのだ。

「自主管理型組織」というコンセプトが大きな注目を集める時代になっても、集権化か分権化かという問題はなくならない。ニコライ・フォスとピーター・クラインは、共著論文“Why Managers Still Matter”でこう述べている。「今日の知識ベースの経済では、マネジメントの権限は低下しているとされている。しかし、ビジネスのやり方について組織全体のルールを定め導入する者の存在は、今なお強く必要とされる」

 マネジャーがルールと敏捷性のバランスを取る方法を見出す際に、本稿で述べたシンプルな理論が一助になれば幸いだ。


HBR.ORG原文:When to Decentralize Decision Making, and When Not To , December 26, 2017.

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組織設計に関するコンサルティング企業、ザ・リトル・グループを率いる。