最新号は、米国で話題を集める論文を掲載しています。まず、多くの有力メディアで引用された米国連邦政府公衆衛生局の元長官のビベック・マーシー氏の論文『「職場の孤独」という伝染病』を中心に「職場の孤独」の特集を組みました。また、発表直後から筆者へのインタビューや関連記事が続出の論文「『#MeToo』運動を機にセクハラ文化は終わるのか」を巻頭で掲載しています。問題が顕在化すると、対策を取るのが早い米国社会のダイナミズムを感じます。

孤独という伝染病が蔓延
ビベック・マーシー氏の警告

 近年、米国のメディアで、孤独問題を報じる記事が増えているようです。2017年では、「中年男性がいま直面する最大の脅威は喫煙や肥満ではなく、孤独だ」(米『ボストングローブ』3月9日)、「米国人はますます孤立しており、公的健康機関の専門家は懸念している」(米『フォーチュン』8月7日)、「長年、学者は孤独と健康の関係を研究してきた。孤独感を抱く人は痴呆や病気になりやすい」(米『ワシントンポスト』12月15日)と続きます。

 そして、米『ハーバード・ビジネス・レビュー』(HBR)は、「職場での孤独」にフォーカスして特集を組みました。

 企業内において孤独を感じる人が増加している事実を踏まえ、そのことが人々の創造性や生産性を悪化させる大きな要因になっている研究を紹介して、経営者やマネジャーに即刻、対策を打つことを促すものです。

 特集1本目の論文は、日本でも話題になった「『職場の孤独』という伝染病」です。筆者はオバマ政権における連邦政府公衆衛生局長官のビベック・マーシー氏。医師としての長年の診療経験と長官としての全米視察、そしてさまざまな調査から、米国を蝕む孤独問題を明かします。

 成人の4割超が孤独と感じ、その比率が1980年代以降2倍になるなど、拡大するさまは伝染病そのものであるというのです。多くの臨床疾患の背後に孤独があり、1日15本の喫煙と同様の悪影響を人の健康に及ぼし、寿命を縮め、創造性を奪い、組織の生産性を低下させると指摘します。

 最近の『ニューヨーク・タイムズ』でも、このマーシー氏の論文を引用して、深刻化する孤独問題への社会的対応を訴えています(2018年4月16日のデイビッド・ブルックス氏のコラム)。

 実践的な経営誌であるHBRの論文は、孤独への処方箋をいろいろな角度から提示しています。特集の第2論文では、孤独感を軽減する方法として「向社会的行動」(対人的なつながりを積極的に求め、促進する行動を指す心理学用語)を説きます。第3論考では、単純明快な情報交換はITで効率的に行い、そこで生まれた余裕を、直接会話の充実に活用して絆を深めることに注力すべきことを、有力コミュニケーションツール「スラック」の開発企業トップが提案しています。

 第4論文は、米軍が開発した、帰還兵に多い孤独感を和らげる精神的エクササイズを、職場で応用する方法を紹介します。いずれも、職場の孤独率を減少させるためのストレートな対策で、特集の主旨通り、すぐにでも行動に移すべきものかもしれません。

 一方、HBR論文の第5論文を含む特集後半は、前半とは異なる処方箋です。職場の孤独を解消するため、仕事仲間との懇親会を頻繁に開いたり、社内に食堂や娯楽設備を整備したりして意図的に社員交流を促す方法は、社員を「共同的関係」(本文ご参照)から遠ざけて、孤立を助長するおそれがあると論じます。筆者は、社員を仕事や職場から解放することを勧めます。

 さらに考え方が異なるのが、日本人による特集6番目と7番目の論考です。6番目の予防医学者の石川善樹氏は、個々の孤独感を直接解決する方法は明らかになっていないが、孤独がもたらす問題を解決する方法はあるという研究を元にアプローチし、ウェルビーイング(幸福感)を向上させる方法を説きます。

 7番目、僧侶の藤田一照氏は、「孤独の事実としっかり向き合わないまま、孤独感を忘れるために他人とつながろうとする先にあるものは、共依存や馴れ合いという傷の舐め合いです。それでは相手を利用し搾取することになり、孤独の苦しみをかえって増幅することにしかなりません」と言います。

 インタビューした当編集部の部員は、俗人代表として疑問や悩みを投げかけますが、都度、藤田氏は表現や例えを変えて、わかりやすく回答されます。そして、2つのマインドフルネスについて詳述しています。