あらゆるプラットフォームで
ベストなソリューションになる

 日本では、リクルート、大阪ガス、三井住友銀行など、大企業の顧客を獲得、また新日鉄住金ソリューションズをはじめ事業上の連携も進んでおり、成功しているように見えます。

 米国のテック企業は、米国でまず事業を確立し、それを世界各地で展開するというパターンです。データロボットもそういったパターンかなと思っていました。でも僕は、よさそうな機会があればまずトライしてみよう、と考えます。もともと日本で事業がここまで大きくなるなんて考えてもいなかったのですが、機会があり、それをいかしているうちにここまできました。

 すべては、リクルートから始まりました。リクルートはグループ全体でAIを包括的に導入していくことを考えていて、大型の資金調達で有名になった米国のベンチャーも含め何社かが競い合い、最終的にはデータロボットが案件を勝ち取りました。リクルート全体で当社のプラットフォームを導入できたこと、さらにリクルートが様々な日本企業を紹介してくれたことが、日本での大きな一歩となったのです。

 また、アキラとシゲルという、事業への深い理解を持つ優れた二人のデータサイエンティストがデータロボットに参画してくれたことが、とにかく大きかったですね。いくらリクルートとの縁があっても、彼らがいなかったら日本でここまで来ることはできなかったと思います。

 僕は、世界中の企業がAIによってより強くなる、機械学習によって実際の利益を上げることを目指しているので、AIが使える個別のユースケースを探すのはあまり興味がありません。

 でも、リクルートでは、グループ内のほぼすべての会社であらゆるユースケースを洗い出し、そこにデータロボットのプラットフォームを導入し、結果として大きな利益を生み出す、ということが起きました。まさにリクルートはAIによってより強い企業となったのです。

 他社と仕事をする際には、「AIによってより強くなる企業」というコンセプトを必ず説明しているのですか。

 はい。企業によってはみんながAIと言っているからAIを入れないと、という程度の認識のところもあるので。

 僕らは6年前からこの問題に取り組み、最初の製品を世に出すまでに2500万ドル(約25億円)を投資し、そこからさらに3500万ドル(約35億円)を投資してきて、すごいスピードで開発が進んでいます。

 しかし、市場には実際の製品やビジネスモデルがないのにAIや機械学習という言葉だけで注意をひいている企業があまりに多いのです。激化する競争の中で、自分たちがどう立ち位置を取るか、というのは大きなチャレンジです。

 かつてのプレゼンテーションを見ると、「AIの王者になるのは、フェイスブック、アマゾン、グーグル、マイクロソフト、アップルのビッグ5ではなく、データロボットだ」と言っていました。

 あのプレゼンテーションで言いたかったのは、ビッグ5はAIだけをやっているわけではない、ということです。グーグルは検索、フェイスブックはSNSの会社で、アマゾンは何でも売ってあらゆる企業と戦っている。一方、我々は、すべての情熱をAIにかけています。

 ビック5は自社AIソリューションを開発しており、それぞれにすばらしいものです。でも、今日の企業の動きをみると、一つのプラットフォームだけを使うということはしていない。一つしか選ばなければ、そのプラットフォーム企業の言うなりになってしまいますよね。企業にとっても複数のプラットフォームを平行して使うのが重要になってきています。アマゾンと戦っているウォルマートがアマゾンのプラットフォームだけに頼るなんてことはしない、ということです。

 ここに、データロボットの勝算があります。データロボットの戦略は、あらゆるプラットフォームで最も使いやすいベストなソリューションになるということ。グーグルなどがAIソリューションを出したら、そのアルゴリズムはすぐに取り込む。そして企業がどんなプラットフォームをいくつ使おうと、データロボットを通せば機械学習ができるようにする。つまり、ユーザー企業が気づかぬうちに選択しているようなレイヤーになるのです。

 また、企業はすべてをクラウド化しているわけではなく、自前のデータセンターも引き続き使用している。データロボットは、ここにも対応できる強みがあります。

 AIを取り巻く課題は何だとお考えですか。

 最大の課題は、データサイエンティストの需要と供給のギャップです。データサイエンティストをいくら一生懸命に養成したところで、爆発的に増える需要には、絶対に追いつけません。このギャップは広がる一方で、埋める唯一の方法が自動化であり、データロボットが取り組んでいることです。

 自動化でギャップを埋める方法は二つ。一つは、データサイエンティストの生産性を劇的にあげる。もう一つは、データサイエンティストでない人々が、今データサイエンティストがやっていることをできるようにすること。ビジネスアナリスト、ソフトウェアエンジニア、データエンジニアの3種類の人たちが、この「市民データサイエンティスト」の候補になると考えています。

 データロボットがそのギャップを狭めることに成功したときに、AIにおける王者になっている、ということですね。

 まだ道のりは遠いですが、一番可能性があるのではないかと。データロボットが目指すのは「世界のAIアプリケーションの80%を支える」ということです。100%ではありません。我々のサービスですべての問題が解けなくてもいい。8割解ければよい、と割り切っています。