●内省しよう

 最初に、相手が意図的にあなたに嫌がらせをしているわけではないことを肝に銘じよう。おそらく、「相手は、自分自身に起きていることに対して反応しているのでしょう」とフェルナンデスは言う。「それをあなたに対する個人攻撃だと考えるのを、まずやめましょう」。

 代わりに、あなた自身の心の内を見るべきだと、マッキーは言う。「相手の態度にひどくイライラするときは、『こんな反応を自分がする原因は、どこにあるのか』と自己分析することが役立ちます」。あなたがフラストレーションを感じているのは「実は相手に対してではなく、あなた自身に対してなのかもしれません」とマッキーは言う。もしかしたら、その同僚は「あなたが好きではない、他の誰かを思い起こさせるのかもしれません」。

自己認識」を持ち、「自分自身の心理構造への理解」を深めれば、共感する力が強化されるとマッキーは言い添える。自分への思いやりと他人への思いやりを育むことが、最初の一歩となる。

 ●平静を保とう

 次に、「感情のセルフコントロールと、意志の力を動員しましょう」とマッキーは言う。同僚が遅刻したり、あなたの話をさえぎったり、とにかくやることなすこと気に障る場合、あなたの身体は何かしら生理的な反応を示しているはずだ。「イライラしつつあるという手掛かりをつかみましょう。おそらく、呼吸が浅くなったり、掌に汗をかいたり、あるいは体温が上がったりしているはずです」。

 このような兆候を放置しておくと、「扁桃体ハイジャック」と呼ばれる状態、すなわち合理的な思考を司る脳の部位が機能停止の状態に陥るリスクがある。そうならないように、深呼吸を2~3回して、「ストレスホルモンを制御しやすくし、後で後悔するような行動を取るリスクを軽減しましょう」とマッキーは助言する。

「平静でオープンな態度」を維持すれば、相手への共感を呼び起こすのにより適した精神状態になると、フェルナンデスは言う。「感情的にならず、思考停止にも陥らずに済みます」。むしろ沈着冷静を保っているので、「状況を的確にとらえることができます」。

 ●好奇心を持とう

 共感には2つのタイプがある。相手の視点を理解する「認知的共感」と、相手の感じていることを察知する「感情的共感」だ。「イライラしたり、むしゃくしゃしたりしているときは、この2つとも機能停止になる傾向にあります」とマッキーは言う。そうなる前に手を打つ必要がある。

・苦手な同僚への認知的共感を呼び起こすために、マッキーが勧めるのは、「なぜ相手がそう言うのか、そう考えるのか、そして、そのように行動するのか」を説明する仮説を立てることだ。「好奇心を発揮しましょう」と彼女は言う。「この人の動機は何か。何にワクワクして、何に元気づけられるのか」を考えてみるといい。「あなた自身の世界観を超えて、相手の文化的背景や、教育、家族環境に何がありそうか、あるいは、相手がこんなふうにふるまう原因になっている日々のプレシャーは何か」、じっくり考えるのだ。覚えておくべきことは、ここでの目標が「相手の視点を理解する」ことだとフェルナンデスは言い添える。「相手の視点を取り入れたり、正しいか確認したり、同意したりする必要はありません。ただ受け入れる必要があります」

・苦手な同僚への感情的共感を喚起するために、「相手の中に、何か心を寄せられるようなものを見つけましょう」とマッキーは言う。イライラさせられる相手に対処する1つの方法は、「相手を6歳の子どもだと想定する」ことだと、彼女は言い添える。言い換えれば、「相手も一人の人間だ」ということを思い出すのだ。同僚の言動を説明するために立てた仮説は、ここでも役立つ可能性があると、フェルナンデスは言う。「相手はストレスに苦しんでいたり、プレッシャーをかけられていたりするのかもしれません。あるいは、単についてない1日を過ごしているだけかもしれません」。「心理学者になって相手の幼年期に立ち入る」必要はないが、「感情的共鳴」を体験するための努力を惜しんではならない。その結果、「なるほど」と理解できることが少なくないはずだ。

 ●類似点に注目しよう

 認知と感情の両タイプの共感を発揮するとともに、「相手のことを知ろうとする」努力をして、「相手の視点への理解」を深めようと試みることも不可欠だとマッキーは言う。「互いの相違点を重視するのではなく、(互いに共有する)類似点を探します。

 それには、小さいことから始めるといいでしょう」と彼女はアドバイスする。あなたにも同僚にも、同じ年頃の子どもがいるかもしれない。ひょっとすると、同僚が近所やあなたがよく知っている町に住んでいるかもしれない。そうしたつながりを利用して、会話を始めよう。

 それでもダメなら、「前回のミーティングで2人とも面白いと感じたアイデアを持ち出す手があります」。仕事が会話の中立的な「共通の土台」になることはよくあると、フェルナンデスは言う。基本的に、2人が目指すゴールは同じで、「会社の成功を望んで」いるはずだからだ。

 ●親身になろう

 実際のところ、「好きな相手に共感するほうが簡単です。決定的な証拠がない限り、相手のすべてを好意的に解釈しようとするからです」とマッキーは言う。嫌いな相手に対しては、逆に最悪のシナリオを考え、それを態度にも出してしまう。その思考の流れを断ち切り、「何か意外で気持ちのいいことをしたり、言ったりする」努力をするようにとマッキーは言う。

 会議中に提案したアイデアを褒めるのもいい。あるいは、プロジェクトをサポートしようと申し出るのもいいだろう。ただし、見せ掛けでは意味がなく、「本心からでなければなりません」

 たとえば、あなたが召集した週の定例会議に、同僚がまたもや遅れてきたとしよう。この場合、文句を言ったり、あきれた表情をしたりしてはいけない。「わざわざ参加してくださり、ありがとう」と嫌味たっぷりのコメントで、受動的攻撃性を示してもいけない。そうしたい衝動に駆られるかもしれないが、ここは我慢のしどころだ。代わりにマッキーが勧めるのは、次のような言葉をかけることだ。「いらっしゃい。コーヒーでも持って席にどうぞ。これまでの経緯をざっと説明します」

 この種の寛容な精神はあなたにとっても同僚にとってもためになる。そして、どんな状況でも共感という選択肢を選べることを忘れないよう、フェルナンデスは指摘する。

 ●(難しいけれど)話し合いをしよう

 それでもまだ、この同僚への苦手意識が拭えなければ、「どのように一緒に働くかについて、話し合う必要」があるのかもしれないとフェルナンデスは言う。「共感というレンズを通して取り組めば、この話し合いが険悪な事態を招くことはありません」。むしろ、「あなたが公明正大であれば、あなたのメッセージを相手がかなり好意的に受け止める公算があります」

 たとえば、「あなたは口先ばかりで実行が伴わない」と言ってはいけない。代わりに、フェルナンデスが勧める言い回しは、「私たち2人で、定例会議中に具体策を出す方法をぜひとも考え出したい」

 あなたが苦手な同僚は、おそらくあなたに対しても同じような感情を抱いているという事実を忘れてはならない。結局のところ、「相手のことでひどくイライラするとき、相手もあなたのことでひどくイライラしているはずです」とマッキーは言う。

 ●覚えておくべき原則

 【やるべきこと】
 ・相手の視点や感情を理解するように努力する。
 ・苦手な同僚に優しさと思いやりを持って接する。
 ・相手に対してネガティブな感情反応が起こりつつあることを認識する。深呼吸をして平静を保つ

 【やってはいけないこと】
 ・相手の行為を個人攻撃と受け止めて反撃してはいけない。代わりに、自分の心の内を見て、「どうして自分がこんな反応するのか」と自問する。
 ・自分と相手の相違点ばかりを見てはいけな。むしろ、類似点や共通するものに注目する。
 ・一緒に働くための最善策を、相手と話し合うことを避けてはいけない。相手のことでひどくイライラする場合は、たぶん相手もあなたにひどくイライラしている。