オープンイノベーションでビジネス開発を進めるべき

――空飛ぶクルマの開発は、前述のカーティベーターが有名ですが、本来的には自動車メーカーや航空機メーカーが積極的に取り組むべきですか。

 そうですね。一方、空飛ぶクルマが面白いのは、さまざまなセクターから企業が参入できることです。グーグル、ウーバーもそうですし、イーハンはドローンのメーカーです。米国やドイツのベンチャー企業も多数見られます。

 懸念されるのは、日本では新規事業が大企業から生まれにくくなっていることです。マネジメント層は「若い人たちから新規事業のアイデアが出てこない」と言うし、若い人たちからは「(新規事業のアイデアを提出しても)役員会議で承認を得るまでに潰されてしまう」という声が聞こえてきます。事業部制の弊害もあります。上司が「やりたい」と言っても、事業部単位で予算を管理しているので、組織横断的な動きが取れないのです。

 イノベーション創出の必要性を声高に叫んでいるわりに、新規事業部にはラインを外れた定年待ちの人材を配しているケースも多い。自社で新規事業を開発できる人材を育成したいなら、ぜひ、我々の研究室やカーティベーターに人材を送り込んでいただきたいと思います。

 空飛ぶクルマは新しい産業です。1社が全部やるのではなく、いろいろなセクターから企業が参入し、ビジネスを開発していく必要があります。たとえば、保険会社や運用管理のソフトウェア開発会社、通信会社、センサーを開発する電機メーカーのほかにも、法律関係やシェアリングサービスを手掛ける会社などが挙げられます。

――「空飛ぶクルマ研究ラボ」は、他大学や企業との連携も進んでいますね。

 米国のパデュー大学、マサチューセッツ工科大学、英国のケンブリッジ大学をはじめ、国内では東京大学、早稲田大学などと連携しています。企業では、自動車、航空機、通信、広告、コンサルティング、電機などのセクターから有志が集まり、週に1回ウェブミーティングで打ち合わせを行い、2カ月に1回のペースで有識者を交えた研究会を開催し、機体システムのデザイン、ビジネス・アプリケーションや運用管理システムのコンセプト開発をスパイラルに行っています。まさにオープンイノベーションです。

 かつて私は、知能ロボットの研究に携わり、アプリケーションの開発に苦しんだ経験があります。日本のR&Dは要素技術の開発に偏りがちで、それができてから「何に使えるのか」を考えます。それでは、ムダな技術を開発してしまうことにもなりかねません。欧米では、むしろビジネス・アプリケーションを考えてから、その実現に必要な技術を既存のものも含め世界中から集めてくるという発想が主流です。今後は日本でも、そうした考え方が必要ではないでしょうか。