より速く目的地に到着できる3次元交通システム
――ラボで検討しているビジネス・アプリケーションは。

実は、日本だけでなく、米国やドイツ、スイス、アフリカ、中東、東南アジアの各国・地域で市場調査やインタビューを行いました。その結果、エアタクシーやエアコミューターのほかにも、離島間の移動手段、防災、ドクターヘリ、山火事の消防、エアポリスなどのアプリケーションを検討しました。
繰り返しになりますが、エアタクシーは米国や中国が先行するでしょう。日本でエアタクシーを世界に先駆けて実現するには規制緩和の観点や市場ニーズから難しいと考えています。私たちが本年3月に主催したシンポジウムで、経済産業省も災害救助や離島間移動、ドクターヘリとしての用途のほうが我が国に向いているという趣旨の説明をしています。そうすると、国内だけでは大量に販売台数は出ませんから、世界を競争するためには、できるだけ早い段階で実用化を目指し、品質向上やコストの引き下げを図る必要があります。
――ラボでは、「世界で戦えるベンチャー企業の輩出」も目標に掲げています。
カーティベーターの代表であり、本学のシステムデザイン・マネジメント研究所研究員を務める中村翼氏が中心となって取り組みを進めています。ベンチャー企業をつくるのは簡単ですが、重要なのはグローバル市場で競争優位性を維持することです。グーグル、ウーバー、エアバスと戦うことはできませんから、どこを狙っていくのかがポイントになります。我が国では自動車産業は重要な産業ですから、その3次元版である空飛ぶクルマは、今後、国がバックアップすることも必要だと考えられます。もしそのようになれば、日本の大企業が動き、ベンチャー企業も数多く生まれるかもしれません。
――空飛ぶクルマの実用化のフェーズと具体的な時期は。
経験のあるパイロットが運転し、乗客が1人、昼間、地方で飛べるようになるのは、地上のクルマの「完全な自動化」が楽観論として期待されている2025年ぐらいでしょうか。2人以上の乗客が可能で、都会でも、夜間でも乗れて、道路も空も走れるようになるのは、それから約10年といったイメージです。しかし、実用的な技術が開発されても商用としての認証を獲得できるということを必ずしも意味していないことは注意が必要です。地上のクルマについても、前述したように空より自動化が簡単だというようには考えていません。
――私たちの生活、ビジネスはどう変わりますか。
空飛ぶクルマを中心に3次元交通システムが実現すれば、より速く、目的地に到着することができます。たとえば、スマホで乗換案内を検索した時に、自宅から目的地までの最短のルートをバス、電車、新幹線などの既存の交通機関に空飛ぶタクシーを加えた選択肢のなかから探すことが可能になります。ウーバーはタクシーの1.5倍の運賃でエアタクシーを実用化すると言っていますから、その水準であれば利用者も多いはずです。
安全性や防衛上の観点から、自由なルートを、自分で自由に運転することは当面難しいでしょう。あくまでも、新しい交通機関が誕生するというイメージです。
(構成/堀田栄治 撮影/宇佐見利明)