ハーバード・ビジネス・スクールのマイケル・ポーター教授らが中心になって1983年に設立した戦略コンサルティングファーム、モニター・グループは2013年、世界最大の会計事務所であるデロイト・トウシュ・トーマツ(以下デロイト)が買収し、モニター デロイトと名称を変えた。今年6月に日本でサービスを開始するにあたり、モニター デロイトのプリンシパルであるスティーブン・ゴールドバッシュ氏に同社の特徴や日本企業へのアドバイスを聞いた(聞き手:大坪亮・DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集長、構成:嶺竜一・フリーランスライター)。
過去のやり方に拘束される
傾向にある日本企業
――モニター・グループとデロイトの統合効果は出ていますか。

モニター デロイト プリンシパル兼 デロイトUS CSO。
カナダ・クイーンズ大学、コロンビア大学経営大学院で学位取得。モニター・グループに入社後、経済誌『Forbes』で戦略ディレクターとして勤務した後、モニター・グループに戻り、ニューヨークオフィスで責任者を務めた。2015年より現職。共著書に、Detonate: Why – and How – Corporations need to Blow up Best Practices (and Bring a Beginner’s Mind)to Survive (Wiley 2018).
モニター・グループが持っていた、経営戦略やイノベーション戦略などに関するノウハウと、デロイトが長年培ってきた幅広い経営コンサルティングに関する知見を組み合わせることで、現場に即した解決法を実践でき、より大きな価値を顧客に提供できるようになりました。
世界では今、戦略コンサルティングファームと会計事務所由来の総合コンサルティングファームの統合・再編が進んでいるものの、カルチャーの違いで統合に苦労するという話をしばしば側聞しますが、モニターとデロイトは組織的な融合を第一に進めてきたことにより、統合効果はいろいろな面で出ています。
――世界的には最近、どのようなコンサルティング案件が多いですか。
さまざまな産業で、ビジネスに関してもテクノロジーに関しても、業界の常識を劇的に変える、いわゆるディスラプション(破壊)が起きています。当社が重視しているのは、そのような変化のある不透明な将来に対して、顧客企業が正しい戦略を選択できるようにアドバイスすることです。
――具体的には、どのようなことでしょうか。
業界やビジネスの構造が一変するディスラプションが起きた際、多くの企業は、その変化に対応すべく、自らも変革しなければいけないことを理解しながらも、過去の成功体験や既存の組織文化などにしばられて、なかなか行動に踏み切れていません。
過去に成功した活動が、いつまでもベストであることはありません。卑近な例で言えば、調査会社から市場データを購入して意思決定を下している企業をしばしば見受けますが、そのような活動はすぐにやめるべきです。市場に出回っているデータは競合他社も購入できるため、差別化要素につながらないからです。
データを無視しろと言うつもりはありませんが、新製品を導入するにあたってのチェックに使うといった程度にとどめるべきです。
――日本企業は近年、イノベーション不足に悩んでいます。
日本においてイノベーションを起こすための環境が、他国と大きく異なっているとは思いません。しかし、日本企業の多くが、伝統的な考え方や過去のやり方に拘束されている傾向にあると思います。
例えば日本のメーカーの方々は、イノベーションとは新しい機能を持った製品の開発であるという考えに無意識に固執しているように感じます。より高機能であったり、より多機能であったりする製品を出さなくてはいけないと思い込んでいます。
しかし今日、多くの情報が自由に共有され、何でも簡単にコピーできてしまうため、テクノロジーのイノベーションに固執することでは、必ずしも競争力を勝ち取ることができません。
――考え方を変える必要がある、ということですか。
禅の考え方ですが、「初心に帰れ」と私たちは伝えています。顧客が製品に価値を感じる瞬間とは、ユーザーエクスペリエンス、ブランドに対するロイヤルティ、作り手やサービス部門とのコミュニケーションなど、さまざまな要素やシーンに隠れています。初心に帰れば、単なるテクノロジーのイノベーションだけでなく、あらゆる可能性を模索することができるはずです。複数のイノベーションを同時に実現して、他社が模倣できない自社独自のものを作ることができることもあります。
また、ビジネスで基本になるのは、顧客の行動を理解することです。その行動を引き起こしている要因や背景は何か、何がモチベーションになって顧客はそうした行動をとっているかを理解することです。それができれば、効果的に顧客の行動を変える方法が見えてきます。