有害な人物の昇進を防ぐ方法はあるのだろうか。

 人格と行動の評価について熟知した組織心理学者であれば、有害な人格を早期に特定する手助けができるかもしれない。しかし、従業員当人が政治的手腕を備えている場合には、この作業は困難となる。上司はまた、昇進させる前に、当人の同僚や部下の意見を聞くこともできるだろう。有害な人は得てして、同僚や部下に対しては、決定権を握る上司の前とは違う態度をとるからだ。

 だが、このような難しい人格タイプが、時として組織の役に立ちうることも覚えておく価値がある。困難な任務を、恐れず、論理的に、冷徹に実行すべき時には、ジェームズ・ボンドのような人物が必要かもしれない。

 たとえば、破綻しかけているが生き残りの望みがわずかでもある企業なら、人員削減を断行する必要があるだろう。従業員を解雇しなければならない場合、ほとんどのマネジャーは心理的に重い負担を感じるであろうが、共感力の低いマネジャーにとっては、それほどでもない。あるいは、たとえ少々ナルシストであっても、技術的な専門家がどうしても必要という場合もあろう。

 優れたマネジャーは、このような人々が他の従業員になるべく被害を与えないように配慮しながら、どのように配置するか、答えを見出すものだ。

 では、正直で謙虚な人は、このような有害な人格の人たちに、常に勝ちを譲ってしまうのだろうか。

 必ずしもそうではない。有害な人々の一部が自分自身の目的のために政治的手腕を発揮することができ、そこで成功している、というだけだ。

 私の研究では、政治的手腕という要素の影響を分離すると、有害な従業員と、正直で謙虚な従業員との間で、平均的な業績評価に差がないことが明らかになった。また、チームの運営などの業務についていえば、正直で謙虚な従業員は、有害な同僚よりも高い評価を受けていた(ここでも、政治的手腕の影響を分離した場合)。このデータは、有害でなくても昇進する人が大勢いる理由を説明するのに役立つ。

 自分は正直で謙虚なのに取り残されている、と感じる人へ、私の研究が示す朗報がある。政治的手腕を身につければ、昇進レースに名乗りを上げることができるのだ。

 組織の内外で、さまざまな集団にいる重要な人物たちとネットワークを構築しよう。他者に心からの関心を示そう(その関心が相手に伝わる方法で。相手が気づかなかったら意味がない)。他者の話に積極的に耳を傾け、職業的・個人的な関心事について質問しよう。親密な空気をつくることができれば、相手もこちらの提案を、もっとよく聞いてくれるだろう。

 政治的手腕をたやすく発揮できる人もいるが、そうでない人でも、このスキルは後天的に学ぶことが可能である。個人と組織の健全な目的のためにそれを利用すれば、自分自身と会社の業績の双方を高めることができるのだ。


HBR.ORG原文:Why Do Toxic People Get Promoted? For the Same Reason Humble People Do: Political Skill, July 10, 2018.

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クラウス J. テンプラー(Klaus J. Templer)
シンガポール社会科学大学の組織心理学准教授。