誰が、なぜ、志願するのか

 誰が昇進につながらない仕事を引き受けるのかを検証するため、我々は簡単な意思決定の課題を設けた。冒頭に示したシナリオに沿って、職場の会議でプロジェクトの担当者を募るというものである。

 最初の実験では、実験室で男女の参加者をコンピュータの前に座らせ、10回の意思決定をしてもらった。毎回、参加者は3人1組のグループに振り分けられ(参加者は、室内にいる他の参加者とグループを組むことはわかっているが、毎回、組む相手が誰になるかはわからない)、ディスプレー上のボタンをクリックする志願者をグループの中から1人選ぶ。

 意思決定までに与えられた時間は2分間として、誰かが挙手した時点で、その回は終了となる。誰も手を挙げなかった場合、参加者全員が1ドルを受け取る。誰かが挙手したら、手を挙げた本人は1.25ドル、残りのメンバー2人は2ドルずつを受け取る。つまり、誰かが手を挙げると、メンバー全員が多くのお金をもらえるものの、志願者だけは手にする金額が少ないのだ。

 全般的に、参加者は手を挙げたがらなかった。84%のグループが志願者を決めることができたが、たいていは制限時間2分間の最後の数秒まで決まらなかった。

 ここで重視すべきは、志願者の男女比が不均衡だったことである。10回の平均を取ると、女性が志願する可能性は男性より48%高いことがわかった。このジェンダー差はすべての回で確認された。

 この実験における課題はディスプレー上のボタンをクリックすることなので、女性のほうが男性より課題をうまくこなすとか、女性のほうが楽しめるという可能性を排除することができた。しかし、志向に関するジェンダー差が、仕事を引き受けるかどうかの差に影響を及ぼしているのかもしれない。とりわけ、女性がみずから手を挙げるのは、男性よりもリスク回避的で利他的だからかもしれない。

 我々はこの点を検証するため、参加者の感じのよさ、利他性、非同調性、リスク回避性の調査指標を調査した。その結果、これらの指標のいくつかは志願する判断と相関関係にあったが、ジェンダー差を説明するものではなかった。

 志向の影響を直接試すため、我々は2つ目の実験を行った。この実験では、男女の参加者を混ぜずに、男女別にグループをつくった。

 女性が男性よりリスク回避的で利他的であることで志願の差が生じたならば、男性だけのグループよりも女性だけのグループのほうが志願者の割合が高くなったはずだ。しかし、その割合はまったく同じだった。同性のみのグループの場合、男性よりも女性のほうが志願する割合が高くなるという傾向は見られなかったのである。

 これにより、男女混合の実験で志願に男女差が出た原因は志向である、という説明を排除することができた。その代わりに、この結果は、真の原因は「男性ではなく女性が志願するものだ」という共通認識や期待だということを示唆している。

 男女混合のグループでは、男性は志願を差し控える半面、女性は仕事を終わらせるために手を挙げる。ところが、同性のグループはそうではなくなる。男女ともに志願の仕方は同じになるのだ。同性のグループの場合、男性は、志願者を見つけるには誰かが名乗り出なければならないとわかっており、女性は、「自分がやらなければ」と考えるのではなく、他の女性が志願することを期待する。

 興味深いことに、女性のみのグループでは、10回を通して志願する役割を公平に分かち合う結果になったが、男性のみのグループでは、毎回同じ男性が引き受ける傾向が見られた。

どんな人が頼まれるのか。また、なぜ頼まれてしまうのか

 女性は男性よりも志願することを期待されているという事実を確認すべく、我々は3つ目の実験を行った。

 今度は、4人目のメンバーとして、マネジャーをグループに加えた。各回の初めに、マネジャーはメンバー3人のうち1人に、公式に志願を依頼しなければならない(マネジャー自身が志願することはできず、他のメンバー3人の写真を見て、頼みたい相手の写真をクリックする)。マネジャーは、グループ内の誰かが志願すれば2ドル、誰も志願しなければ1ドルを受け取る。残りの3人に対するルールは変わらない。つまり、誰も志願しなければ全員が1ドルを受け取り、誰かが志願すれば、その本人は1.25ドルを、他のメンバーは2ドルを手にする。

 マネジャーはグループの誰に頼んでも構わないが、我々は、男性よりも女性に頼む可能性が高いのではないかと予想した。

 結果はその通りだった。男女混合のグループでは、女性が男性よりも44%多く志願するよう依頼された。興味深いことに、マネジャーの性別による違いは認められなかった。男女両方のマネジャーが、男性よりも女性に志願するよう要請する傾向があったのだ。

 これは明らかに、賢明な判断でもあった。なぜなら、女性のほうが引き受けてくれる可能性が高かったからである。志願してほしいと頼まれた場合、男性が引き受けた割合は51%で、女性は76%だった。