1. 一歩下がって優先順位を決められず、ただがむしゃらに仕事をしてしまう
多忙でストレスを感じていると、重要ではないが期限の差し迫った仕事から手を着けてしまいがちだ。
ストレスは我々の視野を狭め、輪車の中のハムスターのように、ただひたすら回り続ける状態を招く。メールが来たら返信し、目の前の仕事を片端から片付けようとする。一歩引いて、いま取り組むべき最も重要な仕事が何かを考えようともしない。そもそも、さして重要でもない仕事に、気がついたら何時間も費やしている。本当にすべきことが山積しているにもかかわらず、である。
この場合の解決策は、一歩引いて、緊急ではないが重要な仕事に取り組むことだ。「自分第一主義」を貫き、ほかの人のニーズに応えるより先に、あなた自身の優先リストにある仕事に集中するとよい。毎日そんなふうに自分最優先でいけるわけもないが、1週間のうち何日かは、自分の仕事を最優先する日をつくるようにしたい。
2. シンプルな解決策が目の前にあっても、まったく気づかない
ストレスを感じていると、シンプルな解決策が目の前にあっても見逃してしまう。これもまた、視野が狭くなっているのが原因だ。いつもと同じ方法で事にあたり、柔軟な考え方ができなくなってしまう。
完璧主義の傾向がある人はとりわけ、多忙を極めると、かえって複雑な解決策を選んでしまうことが少なくない。たとえば、忙しい人は自宅に十分な食料の備蓄がないことが多い。そのため、少量の食料を買うために毎日スーパーに立ち寄ったり、外食したりする。結局は金や時間がかかり、カロリー摂取も多くなる習慣がつき、好ましくない循環につながる。
だからといって、解決策はとてつもなく複雑に思える。週に数時間かけて、1週間の献立を考え、買い出しに行き、つくり置きの料理を用意するなんて、絶対に無理……。
シンプルな解決策を見逃してしまうワナから抜け出すためには、一歩下がって、思い込みがないかと見直してみよう。何でも極端に考えてしまいがちなら、両極の間に解決策を求めてみるとよい(ちなみに、私は備蓄食料の不足を解決するため、150ドルで冷凍庫を購入した。健康的に見える冷凍食品やパンなどの常備食品をこの冷凍庫で保存している。毎日手料理というわけにはいかないが、毎食テイクアウトで済ませる必要はなくなった)。
より幅広く実用的な解決策としては、視野が狭くなりがちなときには、自由な思考ができるように休憩を取るといい。短時間でも休憩することで、狭くなった思考回路から抜け出せる。
トイレ休憩で十分な場合さえある。椅子から立ち上がり、歩き回れるなら、何でも試してみよう。雑用を人に頼まず、自分でこなすのも一案だろう。体を動かして思考を自由に泳がせることが、洞察やひらめきの源泉となる。
3. 同じ問題が再発しても、よりよいシステムをつくる代わりに、解決を先送りにする
精神的エネルギーが枯渇していると、部下や他人に任せられることまで自分で背負いこむことが多くなる。エネルギーが底をついているせいで、助っ人を確保したり、その段取りを組んだりするのに必要な認識力がないからだ。
たとえば、家の掃除を代行してくれる人がいたら非常に助かる状況にあるとしよう。しかし、安心して頼める人を探したり、スケジュールの調整をしたり、どう掃除をしてほしいのか細かく説明したりすることが、いまは(というより、いつも)とてつもない重労働に思える。結局、何週間も一人黙々と掃除し続ける。実際には、1回分の掃除にかける時間を使えば、代わりに掃除をしてくれる人は簡単に見つかるはずなのだ。
再発する問題には、一歩下がって視野を広げれば、シンプルな解決策が見つかることがしばしばある。携帯の充電を忘れることが多いなら、オフィスに予備の充電器を置いておけばよい。いつも同じ間違いをあなたが修正しているのなら、チーム内でチェックリストを作成し、あなたに提出する前に各メンバーが間違いをチェックできるようにすればよい。頻繁に出張をするのであれば、何を持っていくか決めるのに精神的エネルギーを使わなくて済むように、基本持ち物リストを作成しておけばよい。
こうした仕組みを設け、必要に応じて微調整する時間を持つようにしよう。必要なら最初に1日休暇を取り、システム構築に取り組むとよい。その後は、状況の変化に応じてシステムに修正を加える時間を、1週間に1時間確保しよう。
作家のグレッチェン・ルービンは、この時間を週に1度の「パワーアワー(Power Hour)」と名付けた。システムの改良に取り組むと、さらなる改良を可能にするエネルギーや自信につながり、好循環が生まれる。効果的な戦略の数が徐々に増えていくため、問題の解決へと少しずつ進んでいける。
4. 不安の対処策として回避や逃避を選んでしまう
仕事で手いっぱいな人は、不安な状況を回避または逃避したい、という強い衝動を抱く。回避の例としては、上司との重要な話し合いを先延ばしにしたり、結婚式に出席できないと友人になかなか伝えなかったり、といったことがある。逃避の例では、熟考しなくてはならない状況から逃げたいあまり、重要な決断を衝動的に下してしまう、といったことだろう。
決断を過度に先延ばしにしていたかと思うと、逆によく考えもせず衝動的な決断をする、という好ましくないパターンを生む。ほかにも、仕事の後、もう1杯(あるいは3杯)ワインを飲む、テレビの前に長々と座る、あるいは、フェイスブックを延々と見る、といった例もある。不安に感じている緊急の仕事を避けるために、「To Doリスト」のうち重要度の低い雑用をせっせとこなすこともあるだろう。
不安を引き起こす状況に建設的な対処をするには、生活の中に、ある程度の柔軟性と余裕をつくり出すことが肝心だ。そうすることで、不安を感じているときの感情や思考を、うまく処理することも可能になる。練習を重ねれば、しなくてはいけない行動を避けるために別のことをしている自分の存在を、気づけるようになるはずだ。
こうしたパターンに覚えがあるのは、あなただけではない。これは、人格の欠陥や自制心の欠落に起因するものではなく、実に多くの人に共通して見られるパターンなのだ。性格的にまじめで大変な自制心に恵まれた人でさえ、こうした習慣に苦労することもある。むしろ、そういう人ほど、こうしたパターンにフラストレーションを感じ、自分を責めるだろう。
その場合は、自分に少し優しくなろう。これまでの習慣を完全に覆し、自滅的な行動傾向を一気に消滅させようなどと躍起になるのではなく、少しずつ変えていくことを心がけるとよい。
“4 Ways Busy People Sabotage Themselves,” HBR.org, September 20, 2018.