ハーバード・ビジネス・スクールでいま注目されている学者は誰か──。米国『ハーバード・ビジネス・レビュー』(HBR)の経営幹部に先般こう質問したところ、回答で挙げられた一人が、フランチェスカ・ジーノ教授でした。ジーノ教授は実証研究を積み重ね、ユニークな学説を提示します。今号の特集は彼女の論文が中核になっています。

柳井正ファーストリテイリング会長が
問題視するビジネスマンの好奇心の弱さ

 ハーバード・ビジネス・スクールのフランチェスカ・ジーノ教授の論文「好奇心を収益向上に結び付ける5つの方法」は、彼女自身の研究成果に他学者の研究と企業事例を組み合わせて、前半では、マネジメントを改善すると社員の好奇心が刺激され、会社をよりよい方向に導けることを示します。

 しかし、このことは多くの人に認知されているにもかかわらず、マネジャーはそれに伴うリスクを恐れて、実践していません。そこで後半では、社員の好奇心を“的確に”刺激して、個人と組織の収益力を高める手法を紹介しています。グーグルやIDEO、ピクサーなど注目企業の事例はユニークで、説得力があります。

 ジーノ論文に続くHBR論文では、好奇心に関する学術研究を整理しています。かつては好奇心を単一の資質として「どれくらいあるか」と、「量」に焦点を当てがちでしたが、近年は好奇心を細分化して「質」で考えます。本論文は、好奇心を5つに類型化し、それぞれが仕事にどう役立つかを明示します。

 HBR3つ目の論考は、世界有数のエグゼクティブ・サーチ・ファームが、好奇心とリーダー能力についての研究成果をまとめています。リーダー評価で不可欠な潜在能力とコンピテンシーの2つの要素に、好奇心は大きく影響を与えるということです。

 ただし、好奇心が強いことは重要でも、それをコンピテンシー向上に結実させるには適切な環境と訓練が必要。日本人は好奇心が強いけれど、コンピテンシーはそれほどでないという国際比較データがあり、その要因は、こうした点にあるのではないかと問題提起します。

 特集冒頭に登場する柳井正ファーストリテイリング会長は、日本のビジネスマンの好奇心の弱さと対象の狭さを問題視します。情報が偏在して個人の好奇心が刺激されない組織と、みずから行動し経験して情報や知を得ようとしていない個人、その両方の課題を指摘します。

 好奇心が行動を生み、新たな問題意識をもたげさせ、ビジネスチャンスが広がっていく様を、柳井氏みずからの経験をもとに説いています。