残されたはずの人間の優位性の領域に挑むAI開発者

「コンピュータは役立たず。答えることしかできない」。パブロ・ピカソのこの言葉は、人工知能(AI)に対する人間の優位性を指摘する際にしばしば使われます(DHBR2018年1月号の論文「人工知能が汎用技術になる日」やDHBR2018年2月号の論文「IDEO流問いかける力」など)。その意味で好奇心は、問題発見の源泉として人間に残された資質のはずでしたが、今日、AI開発者はこの領域にも挑んでいます。

 驚きの獲得をAIにとっての報酬とするシステムを作ることで、AIの進化を探る特集5番目の論文は、好奇心の可能性の大きさを感じさせます。筆者の金井良太アラヤCEOは、京都大学生物物理学科を卒業後、欧州で長く研究を続け、認知神経科学からのアプローチによる意識研究と、脳科学の現実世界への応用技術を開発しています。

 著書の『脳に刻まれたモラルの起源』(2013年)、『個性のわかる脳科学』(2010年、共に岩波書店)は、脳科学を一般の人にわかりやすく解説していて、読んでいると、知的興奮を覚えます。

 特集以外では、ウォール街の大物、JPモルガン・チェースのジェームズ・ダイモン会長へのインタビューや、コンドリーザ・ライス元米国務長官が筆をとった政治的リスクの論考が秀逸です。

 特に、「米国の銀行家で最も嫌われていない人物」と言われるダイモン氏は、ビットコインについての発言で物議を醸すような、歯に衣着せぬ物言いを、このインタビューでも発揮されています。確固たる、そして筋も通っている信念をもっての発言は、読んでいて痛快です。

 今号でもHBRの2つの論文「リーダーのEI(感情的知性)を高める優れた質問力」「彼女たちはなぜキャリアで成功できたのか」の論点にEIがあるように、かつて日本でEQとして流布された考え方が米国では再び注目を集めています。

 そこで今号から、コラムの連載を開始するとともに、11月7日に書籍『幸福学』『共感力』を2冊同時発売しました。この「ハーバード・ビジネス・レビュー[EIシリーズ]」は今後、3ヵ月おきに1タイトルずつ発行していきます。

 また、10月24日には、DHBR編集部から書籍『企業価値評価【入門編】』が発行されました。著者は、早稲田大学ビジネススクールの鈴木一功教授です。企業価値評価についての知識や考え方を厳選し、コーポレート・ファイナンス理論から企業価値評価の実務まで、体系的に学ぶことができます。ご購読を頂ければ幸いです(編集長・大坪亮)。