罠(1):問題抜きのアイデア
頭の切れる成功者は、素晴らしいアイデアを持っている場合が多い。自分のアイデアに興奮して、それを経営陣に何としても伝えたい、という気持ちになるのも無理はない。
だが、相手の立場に身を置いてみよう。CEOのもとには常に、賢明なアイデアが多数寄せられる。あなたのアイデアを際立たせ、CEOにとって有益なものにするには、問題解決に直結させる必要がある。
そこで、特定した問題をプレゼンの冒頭で提起しよう。最初にどのような文脈でその問題があるかをきちんと説明し、難点を浮き彫りにし、何としても解決しなくてはいけない問題であると切迫感を全面に出すのである。
多くのプレゼンターは往々にして、すぐにソリューションを論じ始めてしまい、なぜその問題に即座に取り組むべきかを立証するのを怠ってしまう。経営陣がまず知りたいのは問題であって、アイデアではない。持ち時間の最初の4分の1を使って問題を指摘し、次の4分の1でアイデアを説明しよう。問題がいかに切迫しているかわかれば、聞き手はいっそう熱心にソリューションを求めるだろう。
残念ながら、ディヴィヤはプレゼンの冒頭でアイデアに言及した。発端となる問題の背景説明抜きで、いきなりソリューションを発表すれば批判にさらされることに、彼女は気づいていなかったのだ。
多くの責任と管理すべき危機を抱えている経営陣は、対処する問題に優先順位をつけて選別していく必要がある。根深い問題、あるいは経営陣が注意を向けなければ深刻化する問題との直接的因果関係が見て取れれば、経営陣はいっそう、あなたのアイデアを優先する気になるだろう。
罠(2):ROI(投資利益率)が不明なアイデア
プレゼンで問題を確立したら、次のステップは、あなたのアイデアによって問題が解決すること、さらにその解決法がビジネス拡大にもつながると証明することだ。
まず、あなたの構想が短期間のうちに、資金を自己調達するようになることを明らかにする。次に、その構想によって、どのように収益が拡大し、かつ組織の他の部署にも資金を供給し始めるようになるかの予想を述べる。インフラとセットアップに必要な資金は見落とされることが多いので、これらの資金の見積額も必ず入れておくようにしたい。
ディヴィヤのチームは、最初にアイデアを提示し、次にそれを実施する方法を説明した。チーム全員が、このアイデアの技術的な利点に沸き立っていたが、市場あるいは競争の勢力図において、ソリューションが会社にとっていかに有用であるかについては、言及しなかった。しかも、アイデアを実行に移すには、現在のところ存在していないツールに、莫大な投資をする必要があるのだ。
罠(3):質問を受け付けないプレゼン
優れたプレゼンをしたければ、目の前の聴衆と交わることが必須だ。だが最高幹部を相手にスピーチをするときには、プレゼンターは多くの場合、自明のことの説明に時間を割きすぎて、聞き手からの意見や質問を受け付ける時間を十分に残さない。
ディヴィヤは持ち時間20分のうち、最初の4分を使って、調査プロセスと彼女のチームが学んだ内容を報告した。経営陣にとって、そこに何ら新しい情報はなかったため、この時点で聴衆の注目を失ってしまった。プレゼン全体では17分かかり、質疑応答にはわずかな時間しか残らなかった。
持ち時間の後半は、質疑応答にあてよう。ちょっと長すぎるように感じるかもしれないが、うまく使えば、プレゼンのうち最も有益な時間になりうる。
矢継ぎ早で単刀直入な質問は、経営陣があなたのアイデアに興味を持っている証拠だ。彼らはあなたが言ったことを頭の中で整理しながら、さまざまな見方と仮説を検証している最中であり、そして、ほとんどの場合はもっと深く知りたがる。
よくある誤解は、質問が出なければうまくいったと思い込むことだ。たいていは、その逆が真実だ。より多くの質問を受けるほど、より優れたプレゼンといえる。
ただし、ここで注意したいのは、質問を装った批判を健全な意見交換と見なしてはいけないことだ。たとえば、「これがいったい全体どうしてうまくいくと思うのかい? 追加の人員が必要となることを考慮していないじゃないか」というのは、質問でも何でもない。
聴衆が好奇心をそそられ、積極的に関与していれば、質問は純粋な興味から発せられる。それは、たとえば、こんな質問になるはずだ。「あなたの成長予想が正確であるとすれば、人員の数をどのように算定していますか」
罠(4):細部に留意しないデータ
たとえ意見交換のために十分な時間を用意しても、幹部の質問への正しい答えを持ち合わせていなければ、窮地に陥りかねない。質問されたとき、特に数字について尋ねられたときには、プレゼンターの応答が不正解になったり、ずさんになったりするおそれがある。
質疑応答の時間に、ディヴィヤのチームメンバーのジョシュは、ある特定の製品を使用している既存顧客の数に言及した。だが彼の数字は、計算ミスのために、実数とは12%の誤差があった。
一度、不正解な数字を提示すると、経営陣はあなたのデータの残りの部分を見限りがちになるだろう。事実関係について確信を持ち、情報源を備え、そして誤りがあれば、いつでもすぐに訂正してフォローアップできるようにする。また答えがわからなければ、時間を無駄にしてはいけない。素直にわからないと認め、追って調べて報告すると告げよう。
組織の最高幹部にプレゼンをする立場だということは、あなたは賢明で有能であるとすでに見込まれている。それを証明しようとして、冒頭でただちに自分のアイデアを述べ、細部に至るまで延々と伝える必要などない。その代わりに提示すべきは、聴衆が真に聞きたいと思っていること、すなわち問題が何であり、会社のためにそれをどう解決できるかについてのあなたのアイデアだ。
対話する時間を十分に提供すれば、経営幹部が当初考えていた通り、あなたが賢明で有能であることは証明できるだろう。
HBR.ORG原文:How to Blow a Presentation to the C-Suite, October 17, 2018.
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サビーナ・ナワズ(Sabina Nawaz)
CEOおよびエグゼクティブへのコーチ、リーダーシップに関する基調講演者、ライター。26ヵ国以上で活躍し、フォーチュン500企業、政府機関、非営利団体、学術機関の最高幹部にアドバイスを提供している。TEDxを含む国際会議やセミナー、イベントなどでの講演数は数百回に上る。HBR.orgに加えて、FastCompany.com、Inc.com、Forbes.comにも寄稿している。ツイッター(@sabinanawaz)でも発信している。