問い2:
自分にとって重要なことは何か?

 評価ツールやコーチによるフィードバックを得たら、そこから自分の要改善点がわかる。一方で、自分自身が望む目標は何かも考慮しよう。いま自分がしていることでどこを向上させたいか、または将来的にはどうなりたいかである。

 EI能力の開発というのは、単に同僚や上司や人事部の誰かに指摘されたから、という理由だけで関心を持つのでは、非常に不利である。EIは自己意識と強く結びついているため、長きにわたる習慣を変えるときには、単に予算編成のようなスキルを学ぶときよりも、内発的な動機に基づく努力が重要となるのだ。

 つまり、自分が積極的に取り組む分野は、「他者からのフィードバック」と「自分自身の願望にとって最も重要な分野」とが交わる部分を選ぶべきということだ。

 自分に問いかけてみよう。能力を伸ばしたい理由は、リーダーの地位に就きたいからだろうか。チームのもっと良き一員になりたいのか。ポジティブな影響力をもっと発揮したいのか。自己管理能力や、重要な目標に集中し続ける能力を高めることなのか。それとも(目標は仕事に関するものでなくてもよい)、自分の配偶者や十代の息子・娘との関係を改善したいのだろうか。

 EIの強化に取り組むなかで、自分の現在のEIの傾向が、最終的な目標に対してどう作用するのかを理解しよう。それが、長期にわたり努力を持続させる一助となる。

 たとえば、自分は良い聞き手だと思っている人が、「良い聞き手ではない」というフィードバックを受けたとしよう。その評価を攻撃と受け止めたり、単に否認したりする代わりに、一歩下がって自分の目標について考えてみよう。それは、もっとうまく人と関係を築き、相手を理解し、コミュニケーションにおいて影響力を発揮することかもしれない。これらを実行するうえで、人の話をよく聞くことは、どのように役立つだろうか。この点に照らしてフィードバックを見つめれば、それを脅威というよりも、目標に向かって発展するためのチャンスと位置付けることができるだろう。

問い3:
目標を達成するために、何を変えるべきか?

 どのEIのスキルに重点を置きたいかを決めたら、自分が取るべき具体的な行動を特定しよう。たとえば、良い聞き手になろうと取り組むのであれば、人と会話する際には、間を入れる時間を取り、話し手が伝えたい内容に耳を傾け、返答の前に理解しているか確認しよう、と心に決めるかもしれない。やるべき行動を具体的に決めてこそ、変えたい習慣を変えることにつながる。

 また、自分が開発中のスキルを訓練する機会が自然に生じたら、たとえどんなに小さな機会でも、必ず利用するべきだ。よくある状況でいままでと違う反応をするよう、脳を訓練するのだ。

「神経の可塑性」の原理によれば、特定の脳の回路がより頻繁に使われるようになるほど、その内部の結合が強化されるという。そして脳は、習慣を変えるにあたり自宅と職場の区別をしない。したがって自宅でも職場でも訓練しよう。上司や直属の部下と同じように、配偶者や十代の子どもも訓練の相手になる。

 自分の新たな習慣を実践するこのような好機を見極めるためには、少し強めに意識する必要がある。最初のうちは努力がいるだろう(実際、実践してみると違和感があるかもしれない)。だが、実践するたびに、脳の新たな経路の結合が強化され、新たな行動をより容易に、習慣的にしてくれる。そのうちに、言葉を返したい衝動に駆られて相手の話をさえぎるよりも、間を取って耳を傾けてから返答するほうが自然になっていくだろう。そしてある日、脳神経的な目標点に到達するはずだ。新たな習慣が、努力をしなくても自動的に作動するのである。それは、新たな習慣が古い習慣に取って代わり、脳のデフォルトの回路となったことを意味する。

 ここでも、取り組みの過程でコーチが助けになる。リーダーや幹部のEI能力向上に関する訓練を重点的に受けているコーチであれば、特に有効だ。彼らは正しい評価方法の案内や行動観察に協力し、行動変革を阻んでいるパーソナル・ナラティブや思考習慣の特定に、一緒に取り組んでくれる。そして、日々のプレッシャーによって好ましくない古い習慣に押し戻されそうなときに、ともに話し合ってくれる。

 これら3つの問いに答え、自分のルーティン的な反応を変えることで、プラスにならない古い習慣を突きとめ、それを新たに改善された良き習慣へと改めることができるだろう。


HBR.ORG原文:Boost Your Emotional Intelligence with These 3 Questions,August 16, 2018

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ダニエル・ゴールマン(Daniel Goleman)
EI(感情的知性)に関する著述で最もよく知られる。ラトガース大学の「組織におけるEI研究コンソーシアム」共同ディレクター。最新刊のBuilding Blocks of Emotional Intelligenceは、EIの各能力に関する12冊の入門書で構成されている。オンライン学習プラットフォーム、「エモーショナル・インテリジェンス・トレーニング」プログラムを通じて、EI能力のトレーニングを提供している。既刊に『EQリーダーシップ 成功する人の「こころの知能指数」の活かし方』、『心と体をゆたかにするマインドエクササイズの証明』などがある。

ミシェル・ネバレス(Michele Nevarez)
エグゼクティブ・コーチ。人事部門の幹部として豊富な経験を持つ。キー・ステップ・メディアのリーダーシップ開発担当ヘッド。ダニエル・ゴールマンの「エモーショナル・インテリジェンス・トレーニング」プログラムおよびコーチング認定のディレクター。ウィスコンシン大学マディソン・スクール・オブ・ビジネスとセンター・フォー・ヘルシー・マインズの共同開発による神経科学的なアプローチ、「職場における心身の健康増進」プログラムの非常勤メンバーでもある。