世界経済を揺るがし、民主主義社会を脅かすフェイクニース問題に、ハーバード・ビジネス・レビュー(HBR)編集部が真正面から取り組んだのが、最新号の特集です。

真偽の見分けがつかない映像を
合成する「ディープフェイク」

 今号の特集は、通常よりも論考数が多く、7本で構成されています。社会に新たに出現した難問であるフェイクニュースを、多面的に分析しているからです。

 例えば、「誤情報ほど伝播力が強い」「誤情報の伝播は、普通の人々の力によるところが大きい」「フェイクニュースは経済的理由で作られることが多い」など、意外な事実を調査によって明かしています。

 まずは、特集2番目の論文「理想のCEOを描いた“真実”の物語」を読んで頂くと、この問題の本質や構造を実感できます。タネ明かしになってしまうので、詳述はできませんが、ショッキングな実話です。

 一方、アマゾン・ドットコムがトランプ大統領から受けた被害の話から始まり、現状における課題と、考えうる対策を的確に網羅しているのが、第1論文です。

 論文の筆者は、ツイッター上の約12年間の大規模な情報を分析して世界に名をとどろかせた、この分野の第一人者。虚偽ニュースは事実情報よりも速く、遠くまで、広範囲に伝播するという研究結果を、有力科学誌『サイエンス』で発表しています。そうした研究を踏まえ、この問題の深刻さを押さえた上で、虚偽ニュースの増殖を抑える方法を説いていきます。

 同じく『サイエンス』で発表された論考「フェイクニュースの科学」をはじめ、学者たちがこの問題の解明に真摯に取り組んでいる、いくつもの研究を整理したのが、特集3番目の論考です。

 主に、(1)人々はどれだけ多くの誤情報を消費するか、(2)なぜ誤情報を信じるのか、(3)誤情報と闘う最善の方法は何か、という3つの問いについての研究成果を紹介しています。

 特集4番目の論文の主なテーマは、企業の立場からの対処策です。虚偽情報によるブランドの毀損から自社を守るため、グーグルなどのプラットフォーム企業にどう対峙すべきか、虚偽情報が拡散する前にソーシャルメディアをどう監視すべきかなど、具体的に論じています。

 一連の問題の発生は、インターネットなどの技術が両刃の剣であることの証左です。情報伝達の利便性が高まった一方で、簡単に悪用できたり被害が急拡大したりする現象が今日のフェイクニュース問題です。

 特集5番目は、この負の側面が新たな技術革新と結合してさらに拡大する恐れを警告します。それが「ディープフェイク」です。人工知能(AI)と機械学習を利用して急速に進歩しているメディア操作ですが、本物と見分けがつかない偽の人物の映像を合成でき、これが悪用されると社会に多大な損害が発生するリスクを明かします。