最強の『バカの壁』は無意識下にあり、
と指摘する養老孟司先生

 以上のHBRの論考に対して、日本の状況の実証研究と歴史的視点から情報社会の未来を考察するのが6番目の論文です。筆者は、ネット炎上を分析した論文で2017年度電気通信普及財団賞奨励賞を受賞した山口真一・国際大学主任研究員。18世紀の産業革命と同様に今日の情報革命にも功罪あるが、技術改良の動向から、問題を克服する兆しがあることを示します。

 もう1つ、まったく別の視点からフェイクニュース問題を論じるのが、『バカの壁』の著者、養老孟司・東京大学名誉教授です。この問題の根源には、過剰に意識化された情報化社会がある、と指摘します。そして、最強の壁として、「無意識下にある壁」を指摘します。見たくないもの、読みたくないものは、無意識のうちに、受け入れない、という壁です。

 どうしたら、いいのでしょうか。限界がある中での、現実的な方法は、「(無意識を超える)感覚を磨く」「雑多な情報、事柄、人間と接触する」などということでしょうか。その具体的な方法の1つに、雑誌(特に米国HBRの翻訳論考が多い本誌)を読むこともあるのではないでしょうか。

 人材マネジメントも、対象となる人材や社会情勢が刻々と変化する中で、有効な施策は変わっています。業績結果を出すことを第一に求められる経営幹部やマネジャーに、そうした変化の情報や知識を取得する時間的余裕は限られています。

 新しい方法をリアルに教えてもらう研修機会は少なく、すでに自分なりに「壁」ができてしまっていると、他人のアドバイスに耳を傾けるのは難しいものです。その壁を多少とも超えられるのが、世界の優れた学者や経営者が推敲を重ねて文章にした本誌の論考です。

 私自身、毎月、米国から送られてくるHBRの論文を読むと、マネジャーとしての自らの言動についてしばしば反省させられます。

 例えば今月号では、巻頭論文「人材戦略はパートナーの人生まで配慮せよ」は、キャリア志向の配偶者を持つ優秀な社員を自社に確保するための施策が紹介されています。リバースメンタリングで上級リーダーの意識を変えるなど、目から鱗が落ちる提案です(編集長・大坪亮)。