ポストがなければ、優秀な若手は辞めていく

 交響楽団の世界では、長年にわたりオーボエ奏者の求人がほとんどなかった。若いオーボエ奏者たちは一流の交響楽団に空席ができるのを待っていたが、何十年も在籍している首席オーボエ奏者たちの多くは、退団しようとしなかった。その間にどれほど多くの若いオーボエ奏者たちが入団を諦め、別の職業に就いたり、二流の楽団で不遇を耐え忍んでいたりしたことか。

 しかし、2000年代初頭に多くの年配のオーボエ奏者が退団し始めた。これにより一流楽団に空席が生まれ、流動性が生じて、下位の楽団の席が空いていった。突如、オーボエ奏者の昇進が可能となったのだ。才能ある1人の若手オーボエ奏者は、この時のことを「天からの贈り物」と表現している。

 オーボエ奏者のこの窮地は、経済界全体で広範に起こりつつある現象の縮図となっている。多くの労働者たちが、退職年齢を過ぎても辞めようとしないのだ。組織におけるこの「ポストの占拠」は、年配労働者が居残ることで有望な若手労働者の昇進を阻害し、人材需要の急増減サイクルをつくり出す。この問題は、筆者らの研究で「キャリア流出効果」と呼ばれるものを通じて、世代間の対立を生むことになりかねない。