営業組織の3つの類型

 営業組織も、こうした潮流の中で変化し続ける顧客に「お役立ち」できるものにモデルチェンジしていく必要がある。現状からの変化の度合いが小さい順から、(1)プロダクトアウト型、(2)ソリューション提供型、(3)創発パートナー型の3つの類型が挙げられるが、そのいずれかにおいて、自社の特性に合った卓越した営業モデルを築いていくことが求められる。

(1)プロダクトアウト型

 どのような営業活動においても当てはまることだが、標準品を提供するこのモデルでは特に、顧客へのアクセスにおける活動量と「打率」(活動あたりの生産性)を高めることが重要だ。

 そのためには、本来攻めるべき(儲かるはずの)顧客を見極めること、営業コストと機会損失を可視化しながら営業リソースを機動的に割り当て直すこと、小口・低収益の顧客に対して低コストの営業チャネルをつくること、顧客接点と営業サポート業務を極限まで「シンプル&デジタル化」して顧客体験やスピードを向上しながらコストを低減すること、などを実行していく必要がある。

 マーク・コバックらの記事あるように、デジタルツールを活用した科学的な取り組みを進めることが有効だ。ひと言で表すと「勝ち筋のパターン化と反復」といえる。

(2)ソリューション提供型

 ある程度の標準形(半製品)を持ちながら、顧客のニーズに合わせてカスタマイズして提供するモデルでは、商品軸の営業から「顧客軸への営業に転換」することが重要となる。 しかし現実には、プロダクトアウト型の営業モデルを維持したまま、顧客ごとの収益性(営業コストを含めて)を把握できていないケースは意外と多い。

 まずは顧客のデータを収集・蓄積して個々の顧客像を組み立て、自社にとっての顧客生涯価値(lifetime value)を左右する「真実の瞬間」(moment of truth)を見極め、そこで勝つことに集中することが重要だ。

 営業管理のあり方も、個別商品基軸の細分化された短期営業目標ではなく、顧客ニーズに柔軟に応えた提案ができるよう、収益を上げる手段や時間軸などを大枠化する。

 また単年度のP/L(損益計算書)目線だけではなく、良質な顧客アセットをどのように積み上げているかといったB/S(貸借対照表)の観点が必要となる。

(3)創発パートナー型

 このステージでは、価値の創出がより顧客接点(現場)で行われるようになる。顧客が実現したい新たなビジネスに一緒に取り組み、手助けするスタイルである。現時点では、こうしたモデルが当てはまる業界は、コンサルティング的な要素が強いビジネスや、商社の一部のビジネスなどに限られるが、今後、「民主化」「加速」がさらに進むにつれてますます広がっていくだろう。

 重要なポイントは、「お見合い結婚のアレンジャー」(仲人)の役割を果たすことである。自社が有する商品・サービスや能力だけでは顧客のニーズを満たすことができないので、他社のフンドシを借りてでも成果を届けることになる。

 そのためには、単独・均質化した営業担当者だけで応えることが困難で、多様な能力を持つチームの組成が必要となるだろう。あるいは、自社だけでは実現できない価値を提供するために、パートナー企業とのフォーラムを持つことも有効となろう。

 多くの場合、現場で顧客とやり取りしながら漸進的に中身が決まっていくため、研究開発的な性質を持つ活動が営業現場で発生することになる。そのため、顧客と共同での「アジャイル型開発」に投資を行う手立てが必要となるだろう。

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 以上、3つの類型に沿って説明したが、いずれにせよ、唯一絶対の正解は存在しない。プロダクトアウト型営業で価値を創出・提供するのも、「民主化」「加速」に寄り添って価値を創出・提供するのも、それぞれの企業が、業界構造や発展ステージを踏まえて選択すべきスタイルの違いにすぎず、どちらかが常によいというものではない。

 ただ、どのようなモデルを選択するのであれ、これまでの成長・拡大の中で形づくられ、DNAとして営業組織に残り続ける「昭和の残り香」を総括し、当たり前のように行われてきたことを俎上に載せ、意思をもって自社の営業を進化させる必要がある。

 上場企業の役員の顔ぶれを眺めてみると、営業担当役員・本部長クラスの大半がバブル以前の入社組であることに気づかされる。たいへん優秀な方々で、数多くの輝かしい実績を上げてこられたことは想像に難くない。

 ただ、産業構造が大きく変化する中で、過去の成功をもたらした営業組織がそのまま通用するわけではない。ファクトに向き合い現状とのズレを認識すること、絶えざる実験を繰り返し失敗やデータを学びに変えること、また、顧客の声など外部の新たな目線を取り入れて日々変革を図ることなどが必須となる。

 自らへの「ダメ出し」で学び、営業のあり方を進化させ続ける企業の眼前には、新たな価値創出で勝者となる可能性が広がるものと確信している。
(了)

※本稿の前提となる記事はこちら