景気後退期に勢力を拡大するためには、大がかりな変革を景気後退前に行っておくのがベストである。新たなデジタルツールを活用しつつ、営業キャパシティとビジネス機会を整合させ、営業のオペレーションを締め直し、本社サポート組織がきちんと回るようにするなど、基本の徹底がカギとなる。
現在われわれが謳歌している景気拡大期は、歴史的観点では相当長い部類に入ろうとしており、日を追うごとに景気後退のリスクは上がっている。景気後退は多くの企業にとっては不意打ちのように起こる一方で、結果はだいたい想像がつく。
2001年の景気後退では、S&P500企業の総売上高は、景気後退前のピークから、景気が底を打った18カ月後――正式な景気後退の終了宣言から1年近くも後――までの間に9%減少した。しかし、適切に準備をした企業にとっては、この期間は混乱に乗じてシェアを伸ばす機会にもなる。
景気後退期に勢力を拡大する企業になるための大がかりな変革は、景気後退が来る前に行うのがベストである。過去の景気後退期における世界各国の約3500社の動向を調査したところ、最終的に勝者になった企業も敗者になった企業も、景気後退の前は2桁の成長率を記録していた。しかし、いざ景気後退に見舞われると、業績の差が顕著に広がり始めた。勝者が成長を続ける一方で、敗者は失速したのである。
業績の差はその後の景気回復期にさらに広がった(図1参照)。勝者が実行し、敗者が実行しなかったことは何だろうか。勝者は、景気後退が来る前に、景気の悪化から自社を防御するための様々な手立てを打っていた。例えば小口顧客にサービスを提供するために低コストのチャネルを追加したり、商品構成をシンプルにしたりといった、営業部門の内外での施策である。
本稿では、新たなデジタルツールの登場を視野に入れながら、営業組織が次の景気後退に向けて今やるべきことに焦点を当てて解説する。まず着手すべきは、営業キャパシティとビジネス機会を整合させ(営業キャパシティは展開したその時から過不足が生じ始めるのが常である)、営業のオペレーションを締め直し(値引きのコントロールなど)、本社サポート組織がきちんと回るようにする(機敏な営業支援組織が不可欠)といった基本を徹底することである。
ここ数年で大いに発展したデジタルツールや分析テクニックは、こうした基本を確実にクリアすることに役立つ。我々が最近、B2B企業約900社を対象に実施した調査では、これらのツールの重要性が際立った。勝者(ここでは過去2年間で純収入を大幅に伸ばし、業界内で市場シェアを拡大した企業と定義する)の間で営業ケイパビリティにデジタルツールを導入している企業の割合は、敗者の約4倍だった。デジタルツールはまた、新たな市場へのアプローチの可能性も広げることができる。