●多様な労働力は、優秀な人材を引きつける職場環境であると示すシグナルになる

 数多くの調査研究によれば、米国や西欧など多様性を重んじる地域の労働者が選ぶのは、多様な職場環境だ。

 回答者1000人を対象に調査を実施した求人サイト「Glassdoor(グラスドア)」が明らかにしたところによると、求職者全体の67%が、求人情報を見る際に、従業員の多様性を確認している。特に、トップレベルの女性求職者は、ジェンダーの多様性がある職場環境かどうかを気にかけている。

 最近の調査では、女性の61%が、就職先を決める際に経営幹部内のジェンダーの多様性を重視するという結果が出た。つまり、きわめて優秀な人物は、多様性をうまく受け入れている職場に就職するということだ。これは多様性のある企業が、一定の文脈で同業他社の業績を上回る一因かもしれない。

 批判的な人は、この因果関係は方向性が逆ではないかと指摘するかもしれない。パフォーマンスの高い企業に、幅広い人材が集まったにすぎない可能性もある、というのである。だが、逆の因果関係を除外するため、我々はいくつかのチェックを行った。

 チェックの一環として、我々は、組織が女性の採用を増やした後のパフォーマンスの変化を追跡調査した。対象に選んだ複数の企業の雇用とパフォーマンスの経時的なパターンを追跡することによって、この2つの変数の原因と、結果のもつれを解くことができた。雇用はパフォーマンスの変化に先行するもので、その逆ではないという分析結果は、多様性が収益アップにつながるという我々の結論を裏付けるものだった。

 要するに、企業パフォーマンスが多様性につながるというエビデンスは得られなかった。むしろ、多様性は企業の成功の推進力になるということが明らかになったのである。

 ●多様性を重視すると、多様なアイデアの交換が進む

 多様性のあるチームのほうがより革新的なアイデアを生み出す、という意義深い研究結果が出ている。異なる文脈を背景にした人々が集まると、それぞれ独自の物の見方が、得てして大きな創造力を生み出す。

 たとえば、ヒューレット、マーシャル、およびシャービンによる研究は、多様な背景や経験を持つリーダーたちが企業のイノベーションを促すと指摘している。多様性のあるリーダーたちは、新しい創造的な発想が認められる環境をつくる傾向にあった。そして多様なチームには、エンドユーザーと共通の経験をしている傾向が見られたという。こうした点が有利に働き、多様性のあるチームのほうが、よりよい製品をつくり出した。

 だが、多様性は、心理的な安全性なくして機能しない。人々が独自のアイデアを集団に提供するのは、率直な意見や対立する意見を言っても安心できると思えるときに限られる。実証実験もこのことを裏付けており、心理的安全性がアイデアを引き出す鍵であることを示している。

 これらの結論は、我々の結論と一致している。国や業種が女性を対等に扱わない場合、その国で働く女性たちは、組織の中で率直な意見を言うことに心理的安全性を感じにくい。その女性たちが革新的なアイデアを持っていたとしても、アイデアを出すのを躊躇しがちだ。そうなると、誰もが損失を被ることになる。

 ●多様な労働力は、投資家に経営力の高さを示すシグナルになる

 ジェンダーの多様性は、企業経営が順調であることを投資家に示すシグナルでもある。市場評価に関する社会学的な研究によると、投資家が評価するのは、多様な人々の雇用といった、一般に受け入れられている「ベストプラクティス」を実践する企業で、こうした規範を破る企業は不利に扱われる

 投資家がジェンダーの多様性を受け入れる文脈にある場合は、そうした多様性の高い企業を評価する傾向にある。実際、過去の調査でも、多様性イニシアティブに関する賞を受賞した企業は、受賞後に株価が急騰している。

 我々の研究結果は、取締役に女性を登用する企業に報いる投資家と、そうでない投資家の違いを分析した過去の研究を踏まえたものだった。女性取締役を評価する投資家は、年金基金など、ジェンダーその他の多様性をきわめて高く評価する傾向にある業種に属することが多かった。女性取締役を評価しない投資家は、文化的にそれほどリベラルではない業種である旧産業に属することが多かった。

 つまるところ、多様性と企業パフォーマンスの関係は、我々がかつて想定していたように、白か黒かで割り切れるものではない。ビジネスに多様な側面があるのと同じように、多様性の影響は文脈に依存し、とくにジェンダーの多様性や受け入れに関する国や業種の規範に依存する。

 しかしながら、9割方の企業にとって、ジェンダーの多様性に対する投資は有効である、と我々は考えている。グローバルなビジネス界は、女性および経済における女性の重要性を、これまで以上に支持するようになってきた。これがプラスのフィードバックループへとつながる。ジェンダーの多様性を支援する企業は、早々にそうした利益を享受し、競合他社より長く存続することになる。

 我々の調査研究手法に関して
 本調査を実施するに当たり、我々は幅広い国と業種の企業のデータセットを作成した。S&Pグローバル1200指数の構成企業に、15ヵ国の指数(オーストラリアASX200指数など)を構成する主要な企業を追加したうえで、サンプル中の5社未満の国と業種を除外した。これにより、35の国と24の業種にまたがる1703社が残った。
 企業各社に関しては、ブルームバーグからジェンダーの多様性と財務実績の2種類のデータを採用した。企業のジェンダーの多様性を評価する際には、企業全体の男女比率を測定する「ブラウ指数」と呼ばれる従来の評価法を使った。こうしたデータを集めることができたのは、ここ数年、自社のジェンダーの多様性を毎年公開する企業が増加しているおかげである。
 企業の財務実績に関しては、2種類の測定法を採用した。1つは、資産に対する収益を計測する資産回転率で、これは実績を示す強力な指標となる。投資家の市場評価の測定には「トービンのq」を採用した。トービンのqとは、企業の市場価値を企業資産の再取得価格で割った値だ。
 さらに国・業種の文脈、特にジェンダーの多様性が「規範と見なされている」という文脈でデータを収集した。国と業種(ブラジルの製造業など)におけるジェンダーの多様性が「規範と見なされている」か否かを測定するために用いた尺度は2つある。1つは、業種・国の結合データにおける取締役への女性の登用率だ。もう1つは、多様性の促進政策やプログラムを公表している企業の比率である。どちらも公的で強いコミットメントの表明であり、そうした文脈はジェンダーの多様性を重視していることを示している。
 さらに、当局による支援と、それが多様性を受け入れた企業の生産性に関係しているか否かにも着目した。当局の支援を測定する際に採用したのは、法的なジェンダーの不平等を測定している、半年に1度の世界銀行からの報告である。
 企業規模、従業員離職率、国レベルでのGDP、過去の業績など、その他多数の要因を調整したうえで、ジェンダーの多様性は、その多様性が規範として受け入れられている文脈においてのみ、財務実績にプラスの効果をもたらすという結論に達した。


HBR.ORG原文:Research: When Gender Diversity Makes Firms More Productive, February 11, 2019.

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スティーブン・ターバン(Stephen Turban)
組織論の研究者、作家、講演家。ハーバード・カレッジで統計学を専攻し卒業。

ダン・ウー(Dan Wu)
ハーバード出身で、データ倫理と人工知能を研究している、個人情報を専門とする弁護士。住宅費と輸送費を手ごろな価格に抑えるための法的手法に関心がある。

レーティエン・チャン (Letian(LT) Zhang)
ハーバード・ビジネス・スクール助教授。研究テーマは、社会的不公正と多様性。