トップダウンからの学習促進
自社の人事部門のリーダーに、将来のために新しいスキルをどう獲得するつもりなのかと尋ねてみよう。ほぼ3人のうち2人は、必要なスキルを持つ人材を社外から募集すると答えるだろう。
だが、これではコストが高くつく。筆者らのあるクライアントによると、社内で技術的なスキルを養成すれば、社外で雇用市場から人材を確保する場合に比べてコストは6分の1で済むという。
では、企業がワークフローを上手く活用して従業員のスキルを養成するには、どうすればいいのか。大企業の特性の中には、学習の妨げになるものもたしかに多いが(コンテンツの氾濫、質の悪いデータなど)、学習の触媒として利用できるものもある。従業員の能力を高めるために、システムやプロセスや文化を変えたいと強く望むビジネスリーダーは特に、下記を参考にしてほしい。
●自社のナレッジシステムを正確かつ使いやすいものにする
従業員は常に情報を模索しており、ほとんどの場合、答えを求めてグーグルやYouTubeを検索する。この現実を認めながらも、社内のナレッジシステムをより迅速で有用なものにするためのキュレーションと調整に、時間を割くべきである。
情報が整理されていない古くて雑然としたウェブサイトを持っていても、会社にコストがかかるだけだ。そして自社専用のポータルの構築は、かつてなく容易にできる。
検索結果は有用でなければならない。これは言うは易く行うは難しであり、実現するにはコンテンツのタグ付けや管理を適切に行う必要がある。IT部門と協力してこの問題の解決に取り組めば、有用なシステムを驚くほど早急に復活できるだろう。
●社内でコンテンツを共有する
社内の一部分で自然に生じた学びの成果を、テクノロジーによって組織内に広く拡大することが現在では可能だ。たとえば、2人のアカウントマネジャーが1つのプラットフォームで複雑な商取引の交渉に関する記事を共有した場合、その記事をアルゴリズムによって特定・タグ付けし、さらに多くの営業担当者に拡散することができる。
●API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を活用して、職場にコンテンツを提供する
「APIエコノミー」の出現によって、かつてないほど容易にコンテンツをワークフローに統合できるようになった。現在、ほとんどのソフトウェアは相互運用性を考慮して開発され、その多くはAPIを通じて提供される。
オープンAPIを持つプラットフォームの一例として、SlackやTeams、Atlassianなどが挙げられる。したがって、ZapierやIFTTT、学習向きのAPIなどの統合テクノロジーを利用して、目的に見合った学習コンテンツを従業員の日常業務に組み入れることができる。
●社内のコミュニケーション用ソフトウェアに、学習専用のチャネルを組み込む
オンライン上に学習専用の場を設け、リーダーたちがみずから有意義な情報を提供し、利用を促そう。また、情報共有に積極的な人やインフルエンサーに、新しいコンテンツの投稿と拡散を奨励しよう。このような貢献が社内の上層部から行われれば、学びは不可欠なものであるというメッセージがより強く明確になる。
●会話またはチャット機能を持つインターフェースの導入を検討する
メインのワークフローソフトウェアにチャット機能を追加することは、学びと仕事を両立させるシンプルで効果的な方法といえる。チャットボットの知能が向上し、ワークフローの中で、いま実際に起きていることに見合った対応をするようになれば、煩わしさは減り、より有用なものになるだろう。
●メールの受信箱に学習を組み入れる
メールはいまなお知識労働者の日常業務の重要な部分であり、外部とのコミュニケーションにおける限られた共通媒体の1つである。したがって、地味な方法ではあっても、個人宛のメールを限定的に利用することは、スタッフの日常業務に学びを組み入れる最も効率的かつ効果的な方法といえる。
世界の企業幹部の94%は、他のどのフォーマットよりもメールで新しい情報を得ている。ならば従業員の学習も、同じ方法であってもよいはずだ。EUの一般データ保護規則(GDPR)などに見られるように、プライバシーをめぐる規制が厳格化する中、邪魔なメールは減っていき、個人宛のメールの価値もそれに応じて高まるだろう。