企業の学習担当リーダーたちの見解

 ワークフロー内学習という概念は、世界各地の最高学習責任者(チーフ・ラーニング・オフィサー)たちの共感を得ている。

 市場規模3600億ドルといわれる企業研修産業はえてして、より「華がある」企業活動の影に隠れてしまいがちだ。その主な理由は、特定の学習プログラムの成果を証明することが困難だからである(とはいえ研究によれば、一般的な学習・研修が個々人と社会に恩恵をもたらすことは疑う余地がない)。

 しかし、企業が従業員の意欲と幸福をより真剣に考え始めている中、その状況も変わろうとしている。ここからは、因習を打破しようとする学習リーダーたちの意見を3つ紹介しよう。

 プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)の最高学習責任者アン・シュルテは、2019年にはこれまで以上に学びが重要になる理由と、それが同社の戦略にどう反映されるのかを、次のように説明している。

「P&Gでは、“最速の学習者が勝つ”と考えています。不確実で変化の激しい市場においては、実験、迅速なフィードバックサイクル、適応能力が競争に不可欠な要素であり、そのすべてに学習が必要となるからです。従業員の学習速度を上げるために、学びと能力開発の管理方法を劇的に変え、目の前のビジネス状況と個々人のニーズに重点を置くようにしています。そのために、まず情報への容易なアクセスと、パフォーマンス支援ツールを与えています。そして、目的にしっかり見合っていて仕事に直接応用できる、綿密に計画されたトレーニングを提供しています」

 セインズベリー(英スーパーマーケット大手)のグループデジタル学習・デザイン担当マネジャー、ヘレン・スミスは、効果的な社内学習ソリューションを開発するためには、デザイン思考が重要であると強調する。

「学習機会の創出とテクノロジーの導入は往々にして、中枢にいる人たちが、これならば有用だ、あるいは可能だと考える内容に基づいて行われています。どうすれば実際に従業員は仕事を改善できるのか、という点が考慮されないのです。この問題を克服するためには、我々は学習部門の専門家として、従業員の日常業務における現実を理解するためにもっと時間を費やし、自社の製品やサービスがその現実に即したものになるよう万全を期すことが重要です」

 サンタンデール銀行のナレッジ・能力開発・人材マネジメント担当グローバル責任者、エリザベッタ・ガリは、企業は消費者向けソフトウェアに発想のヒントを求めるべきだと考え、次のように述べている。

「従業員は空き時間に、必要に応じてソーシャルメディアや検索機能を使って好奇心を満たしています。本来、仕事中もそうあるべきです。消費者レベルの体験と同じような、社内学習の体験を創造しなければなりません。ワークフローの中で学ぶエコシステムを創造し、学習する組織になり、働く人たちのスキルをリアルタイムで向上させる、というのが我が社のビジョンです」

 ワークフロー内学習は、今日のビジネスリーダーたちにとって最も効果的な手段の1つである。この新しいパラダイムは、どの組織にも有効であると筆者らは考えている。それは長い時間をかけて到来した、次なるイノベーションの波なのだ。どうか、この波を上手く乗りこなしていただきたい。


HBR.ORG原文:Making Learning a Part of Everyday Work, February 19, 2019.

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ジョシュ・バーシン(Josh Bersin)
人事、人材、学習の分野で研究に基づく会員制プログラムを提供するバーシン・バイ・デロイトの創設者兼プリンシパル。リサーチアナリストおよび講演者としてグローバルに活躍。また著述家として、企業人事や人材マネジメント、採用、リーダーシップ、テクノロジー、仕事と生活の両立をテーマにした本を執筆。

マーク・ザオ=サンダーズ(Marc Zao-Sanders)
フィルタード・ドットコム共同創業者兼CEO。同社はAIを活用したスキル開発と学習を通じて生産性を向上させる教育テクノロジー会社。リンクトインはhttp://linkedin.com/in/marczs