脳と心を休ませるための技術群

 いわゆる「5月病」にも、こうした考え方は有効ではないかと思います。セルフ・コンパッションやマインドフルネスは、気の持ちようかもしれませんが、わかった気になると、少し楽になる感じがします。そして、さらに詳しく知りたくなる方のために、お勧めの書籍を4冊、紹介いたします。

 まずは、『世界のエリートがやっている 最高の休息法』(久賀谷亮著、ダイヤモンド社)です。ベストセラーなので、すでに読まれた方がいるかもしれませんが、実はマインドフルネスの入門書と言える内容です。著者は医師。イェール大学で先端脳科学研究に携わり、臨床医として8年間従事し、開業されています。

 本書は、DHBR最新号のp.42で紹介されるDMN(デフォルト・モード・ネットワーク)の話から始まります。DMNは脳のアイドリング状態で、ぼーっとしていても脳のエネルギーの60~80%を消費し、脳は疲れていくとされます。マインドフルネス瞑想によってDMNが低下して脳の休息につながるなど、多くの学説が紹介されます。

 師匠と弟子の会話によるストーリー仕立てで、弟子が読者の心持ちを代弁します。例えば、慈愛を育む手法メッタの解説シーン。師匠は「自分にとってストレス原因になる人のことをイメージして『幸せでありますように』と心の中で唱えるように」と指導しますが、弟子(読者)は半信半疑になります。しかし、続けて、「脳科学の裏付けがある」と教わり、弟子は納得するという具合です。

 2冊目は、『マインドフルネスストレス低減法』(ジョン・カバットジン著、北大路書房)で、世にマインドフルネスを知らしめた原典です。一般に原典は難解で、後続書は原典を平易に解説するものですが、本書は分かりやすい。著者のクリニックでの患者体験談によって説明され、納得感があります。最重要事項であるマインドフルネス瞑想法の実践の仕方や、瞑想によるストレス対処法も、原典なればこその詳しさです。

 3冊目は、『セルフ・コンパッション』(クリスティーン・ネフ著、金剛出版)で、本特集テーマの原典です。概念解説、従来の学説との関係、実践法が網羅されています。そして、本書もまた分かりやすい。各章に著者本人の体験が書かれていて、それを基に学説を解説しているからです。著者の元恋人、夫、子供との会話や本人の気持ちの変化など、事実の物語の強みがあります。

 特集テーマへのアンチテーゼの書としては、『ハーバードの人生が変わる東洋哲学』(マイケル・ピュエット&クリスティーン・グロス=ロー著、早川書房)があります。「はしがき」によれば、ハーバード大学で3番目の人気を誇るピュエット教授の講義が基になっています。

 前述しました、今月号でお話を伺った中島隆博氏が解説を書かれています。本書は孔子や孟子など中国哲学を論じていますが、その対比として、マインドフルネスがやり玉に挙がります。無我の教理である仏教を取り入れたマインドフルネスが、自己を受け入れる方法として利用されている、という具合です。

 1冊目の『世界のエリートがやっている 最高の休息法』では、マインドフルネスを「脳と心を休ませるための技術群」と表現しています。複数ある学説や手法から、自分が受け入れられるものを選択して、より良い生活を送れるようになることが肝要かと考えます(編集長・大坪亮)。