会社の問題点を最も的確に把握しているのは、現場で働く従業員たちである。組織のパフォーマンスを高めるうえで彼らの情報は有用なはずだが、マネジャーが現場からの意見やアイデアを歓迎するとは限らない。それどころか、意識的に無視することすらある。従来、その問題はマネジャー個人の資質によるものだとされていたが、実は組織の問題であることが明らかになった。
従業員が新たなアイデアを出し、懸念や問題を提起すると、組織は革新を起こし、パフォーマンスを高める。従業員は往々にして現場の問題を真っ先に見つけるので、その情報は経営上の意思決定に非常に役立ちうる。
けれども、マネジャーが従業員のアイデアを必ず奨励するとは限らない。それどころか、従業員の懸念を積極的に無視したり、マネジャーの振る舞いが原因で従業員は声を上げる気にまったくならなかったりすることすらある。
ここに、1つの矛盾がある。マネジャーはなぜ、部下の意見やアイデアが自分自身と組織に有益であるというのに、それを奨励しないのだろうか。
この点について、最近の研究の多くは次のように示唆している。マネジャーはしばしば、自分の仕事のやり方に固執し、また現状に非常に忠実であるため、それに反するような下からの情報に耳を貸すことを恐れているのだという。
これに対し我々は、『オーガニゼーション・サイエンス』誌に掲載された最近の論文の中で、別の見解を提示し、次のことを実証した。率直に発言できる職場文化をマネジャーがつくれないことが多い理由は、自己中心的であったり、自我や自分自身のアイデアのみを重視したりするからではなく、組織によって、それが不可能な立場に置かれているからなのだ。
マネジャーは、2つの顕著な障壁に直面していることが明らかになった。部下からの情報に基づいて動く「権限」を与えられていないこと、そして仕事での「短期的な展望」を採用せざるをえないと感じていることである。
ここでは仮の例として、製造マネジャーであるジェーンのケースを見てみよう。彼女は、組織に対する貢献意識を持っており、部下によくしたいと思っている。
ジェーンは、自分よりも製造ラインの近くにいる部下数名が、作業現場の仕事の流れを改善できる、優れたアイデアを持っているはずだと知っている。だが、ジェーンの組織では、本部で中央管理される面倒な承認プロセスを経ずに何らかの変更をする権限が、マネジャーに与えられていない。
また彼女は、改善の追求に時間を割くことに気乗りもしない。次の納期や目標を達成するといった、短期的な成功に対してのみ評価されているからだ。
さて、ジェーンは、部下にアイデアを出すよう奨励することは確かに可能だ。だが、そうすれば部下は、そのアイデアを彼女がただちに実行に移すよう期待するだろう。彼女にはわかっているが、それは不可能だ。
また、新たな慣行や変更を導入すると、長期的には有益であるものの、短期的には製造の流れに混乱をきたすことも認識している。期末の製造目標がのしかかる中、ジェーンは変更についての会話をスタートする時間を見つけるのが難しいだろう。
我々のデータでは、多くのマネジャーが、ジェーンと同様の状況に直面したことが明らかになっている。マネジャーは往々にして、物事を変更する自由裁量が与えられていない環境で働いている。中央集権的な意思決定体系に身を置いており、その中では権限が階層のトップに存在し、彼らは単なる「仲介役」なのだ。
よしんば、実行する権限を与えられたとしても、長期的な持続可能性の追求よりも、短期的成功を示せという要求に依然として直面している。このような状況下では、どれほど好意的なマネジャーであっても、部下にアイデアを求めようとしないばかりか、抑え込むこともあるかもしれない。