我々の研究

 我々は4つの分析を実施した。

 1つ目の分析では、行動実験で160人の学生にマネジャーとして振る舞ってもらった。バーチャル上で作業をしている1人の部下を、監督するという役割だ。

 我々は、彼らに非常に厳密な仕事の指示を与えるか、または仕事の遂行方法に自由裁量を与えるかのいずれかにより、仕事に対する彼らの権限意識を操作した。マネジャー役の学生には、部下にアイデアや意見を求める機会が与えられている。彼らの役割における自由裁量の度合いが、マネジャーとして下から情報を求める気持ちに影響を及ぼすかどうか――これを調べたのである。

 予想通り、自由裁量が小さい条件下の学生マネジャーは、部下による提案と情報提供を奨励する傾向が低かった。実際に、これらの学生は、自由裁量が高い条件下に置かれた学生と比較して、仕事の問題について部下と話し合うために割く時間が25%少なかったのだ。

 次の分析では、424人の社会人を別の行動実験のために募集した。短いケーススタディを通じて、被験者には自分をマネジャーだと想像してもらい、チームにおける作業プロセスの改善について、部下から情報を求める機会があるという設定にした。

 マネジャーの職務環境として次のいずれかを提示することで、被験者の権限意識を操作した。1つは、マネジャーには自由裁量と影響力が存分にあるという設定。もう一方は、組織の厳密な官僚主義に縛られているという設定である。

 この実験では、権限の小さい条件下に置かれたマネジャーは、権限の大きい条件下に置かれたマネジャーよりも、部下からフィードバックを求める傾向が30%低かった。

 我々はまた、マネジャーの長期志向の度合い、すなわち、意思決定において短期的な成果よりも長期的な成果にどれほど重点を置くかも測定した。

 この分析では、実験で権限意識を強く持ったマネジャーであっても、長期的な視野を欠く人は、権限が小さい人と何ら変わりないことが判明した。彼らもまた、部下による提案の機会をつくる傾向が低かったのだ。マネジャーは、権限を与えられていると同時に、チームの長期的な成功を望む場合にのみ、部下からの情報を求めたのである。

 さらに我々は、これらの研究結果を、実際のマネジャーと部下のペアを対象とした2つの別々の調査で再現した。

 米国(145組)とインド(200組)で、多様な組織からのペアを対象として、マネジャーには、組織において権限を付与されている度合いと、みずからの長期志向の度合いについて尋ねた。部下には、チーム内でどれだけ意見の発信を奨励されているかを報告してもらった。その結果は、2つの国を通じて一貫性があり、同等であった。

 たとえば、米国での部下の報告によれば、権限を付与されている度合いが低いマネジャーは高いマネジャーよりも、部下にアイデアを募る傾向が約15%低かった。さらに、双方の調査において、マネジャーは権限だけでなく、長期的な視野を持っている場合に、部下からアイデアと情報を求める傾向が高かった。1つの要因だけでは十分でなかったのだ。

結論

 自由に意見が言える職場文化をつくれないマネジャーは、非難されやすい。彼らの変化を恐れる気持ちや独りよがりが、部下からの声を奨励するのを妨げているのだ、と言われる。

 だが、我々の研究結果は別のことを示唆している。マネジャー自身に権限が与えられておらず、短期的な成果に重点を置くよう求められているならば、部下からアイデアと情報を募り奨励せよと求めるのは酷なのだ。

 組織は、みずからの慣行(上層部による過剰管理など)が、マネジャーの仕事における自律感にどの程度影響を及ぼしているか、検証することが重要だ。また、下からのアイデアが経営トップまで伝わり採用される度合いが、短期主義の蔓延によっていかに抑制されうるかを理解することも必須である。

 マネジャーの長期的な視野を培い、短期的な要求事項から一歩退く機会を与えよう。そうすれば、マネジャーはチーム内の創造性とイノベーションを促進しやすくなる。そして長期志向を見せるマネジャーに、より多くのリソースと影響力を付与すると、さらなる利益が得られるだろう。


"Research: Why Managers Ignore Employees’ Ideas," HBR.org, April 08, 2019.