雇用者には、正しい軌道に戻す力がある
まず、雇用者と従業員の関係を、現代の従業員のニーズの変化に適応させる必要がある。
大学を卒業すれば雇用機会は保証されるという虚しい約束に裏切られた新世代の従業員は、もはや雇用の保証だけでは満足しない。最高の人材を求めて競う雇用者は、この傾向を認識して、従業員を経費としてではなく投資の対象と見なすことにますます力を入れるべきだ。
長期的に健全な利益を約束する投資がみなそうであるように、大切なのは、マクロの視点で見ることだ。
今日、大半の企業は、手っ取り早い生産性に最適化しようとしている。できるだけ迅速に仕事をこなし、給料分の利益をできるだけ迅速にもたらす従業員を雇おうとする。
しかし、本当の意味での従業員への投資とは、短期的利益の一部を見送ってでも長期的な繁栄を実現することかもしれない。先見の明がある組織なら、メンバーの心身の健康を何より優先する。
それは、実際にはどういうことだろう?まず大多数の人がもっとも重視していることから始める必要がある。それは安定と選択の自由だ。前者を解決すれば、後者も可能になる。
今日、貸与奨学金の負債は、成人人口における経済的負担の最大の要因である。現行の返済免除プログラム(ほんの一握りの人しか該当資格がない)以上に、この負担を軽減する従業員給付を提供すれば、従業員が安定感を得る最初のステップになる。
幸いにも、一部の企業ではすでに、この取り組みが始まっている。従業員が貸与奨学金を支払ったり、働きながら学位を取ろうとする従業員が学費積立制度を利用したりするための手当がある。フィデリティ・インベストメンツやエトナなどの企業は、こうした給付を実現するために、テューイション・ドット・アイオー(Tuition.io)やグラディフファイ(Gradifi)のような貸与奨学金の返済を支援する団体と提携して、従業員の貸与奨学金の返済のために年間1人2000ドルまで提供している。
給与だけでは大学教育の費用を返済できないことは明白になってきたので、こうした実践は、より多くの企業に広がる可能性がある。そもそも大学教育は、今日のほぼすべての雇用者が要求する教育なのだ。
短期的には、それによって新しい従業員への支払いが全体的に若干増えるかもしれないが、長期的には、最高の人材を引きつけた企業が勝利する。従業員の中には、やがて自分で事業を起こす人もいるだろうが、かつて自分に投資してくれた企業と提携する可能性は高く、自分のネットワークの高度な人材を紹介してくれることさえあるかもしれない。
こうしたプログラムが徐々に一般的になったら、ミレニアルと、それに続く世代に新たな自信を喚起できるだろう。また、イノベーションの開花に欠かせない、リスクへの許容度が再び大きくなるだろう。
もしフィル・ナイトが何十年にもわたる貸与奨学金の返済を心配していたら、ビジネススクールを卒業してすぐに、日本に旅立とうとは思わなかったかもしれない。その旅こそが、やがてナイキの創設へとつながったのである。