資本提供者には、資本提供の実践の変化や適応が必要
多様な起業家やイノベーションを生み出す人を増やし続けるには、新たな資金源を利用できるようにする必要がある。
今日、利用できる投資資本の大半は、ごく少数の新規ベンチャーや新規性のある計画にしか渡っていない。特に科学研究の分野では一般に、大組織やそのエコシステムから全面的な後援や支援を受ける博士号取得者にしか資金が提供されていない。
だが、モバイル決済企業ストライプの創業者パトリック・コリソンや経済学者ラッセル・ロバーツが指摘するように、世界に最も大きな影響をもたらした科学的貢献は、標準的な枠組の中にいない人々による発見だった。
個人の実験室でせっせと発明に励んだニコラ・テスラや、特許事務所の仕事を抜け出して研究を続けたアルバート・アインシュタインを思い出してほしい。従来のキャリアパスにはいない、より広範囲の人々が資金を利用できるようにすることは、イノベーションに必要不可欠なのである。
商業的ベンチャーキャピタルの分野では、さらにアクセスは限定される。ベンチャーキャピタル企業は、2017年だけで新資本に610億ドルを投資した。これは相当な額ではあるが、実はその行先は、同年に創業したベンチャー企業全体の1%にも満たない。残りの99%はもっと一般的な手段、つまりクレジットカードのローン、銀行のローン、友人や家族からの借金、副収入(コンサルティングなど)によって資金調達している。
もちろん、さらなる負債を増やすのは賢明ではない。では、ほかにどのような資金源があるのだろうか。
多くのファンドは、標準的なベンチャーキャピタルのモデルを再考し始めている。
こういったモデルでは従来、1社か2社のユニコーン企業(評価額10億ドル以上の新興企業)によって残りの投資の損失を全部回復することを期待して、比較的狭い範囲の企業を対象に、成長促進のための巨額の資本を投入してきた。だがこのモデルは、大半の起業家が実際に必要とする安定と持続可能な成長とはまったく相容れない。
従来の株式ベースのベンチャーキャピタル・モデルは自分たちに適さないと考える起業家の間で、新種の資本がすでに人気を博し始めている。
レブアップ・キャピタル(RevUp Capital)のような団体は収益ベースの融資を提供し、インディー・ドット・VC(Indie.vc)のようなファンドは、企業が収益の一定の比率を少しずつ返済できるようにして株式投資をしている。こうした新モデルは、すでに収益を生み出している企業にとっても、もちろんよいスタートになるが、もっとリスクの高い初期段階に投資をするためには、さらなるイノベーションの余地がある。
教育セクターは、資本投資家の手本となる新しいモデルを開発している。
たとえば、コードを学ぶラムダ・スクール(Lambda School)では、学生に「収入シェアリング契約」という選択肢を提供している。学生は貸与奨学金を借りる代わりに、将来の収入の一定の比率を授業料として返還する契約を結ぶ。同様のモデルは、起業したい人にも有効かもしれない。将来の収入の一定の比率、あるいは将来の企業の株式を通して投資家に返済する契約を結ぶこともできるだろう。
変化を起こす最初のステップは問題への気づき、次に教育、そして最後は解決に向けた行動だ。イノベーションのペースは1人の意見や信念によって決まるものではなく、集団的な行動に影響される。雇用者、投資家、起業家、そして教育者は皆それぞれ、もう一度イノベーションに火をつけるために果たすべき役割がある。
若い世代には、スタートラインで公平なチャンスを与えられるべきだ。私たちの未来は、そこにかかっているのだから。
HBR.org原文:Student Debt Is Stopping U.S. Millennials from Becoming Entrepreneurs, April 26, 2019.
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バディム・レブジン(Vadim Revzin)
全米規模の非営利団体GenFKDの客員起業家。ニューヨーク州立大学で起業家精神について教え、成功した創業者やクリエイターの体験談を紹介する週1回のポッドキャスト番組「メンターズ(Mentors)」の共同ホストを務める。これまで何百もの新興企業に助言をし、初期および成長段階の新興企業数社を設立したリーダーである。
セルゲイ・レブジン(Sergei Revzin)
ニューヨーク大学イノベーション・ベンチャー・ファンドのベンチャー投資家。同大学のテクノロジー投資を主導し、双子の兄バディムとともにポッドキャスト「メンターズ」のホストを務める。ベンチャー・フォー・アメリカでの働きを通して、国内の数百人の起業家を指導。ニューヨークとボストンの複数のテクノロジー企業の創設者兼社員。