統合報告書を作成している日本企業は400社超
――世界ではどれほど進んでいますか。
欧州の企業が多く取り入れ、2018年時点で、世界で統合報告書を公開している企業は約1600社に上っています。日本で統合報告書を作成している企業は400社を超え、国別では世界で最も多い。統合報告書は日本の企業文化に合っているのです。一方で、日本企業は財務の数字だけで企業価値を測られると弱い面があります。
人材やナレッジ、技術といった、財務諸表にはのらないけれども、日本企業が大事にしているものを企業の資本に入れて考え、それらを連結させながら企業価値を高めていくという統合報告書のコネクティビティという考え方は、日本企業にとって親和性が高かったのです。
しかし、米国では、統合報告書を出している企業はほとんどありません。私も米国で行われる会計に関する学会に出ていますが、統合報告書について言及されることまずありません。米国では、先に述べたパブリックとプライベートの概念がしっかりしているので、プライベートである企業が行うべきことに注力しCSVの成果も財務数字上で判断する傾向です。一方、企業もパブリックの一員であるので、パブリックの範疇で社会的価値や社会貢献活動は、サステナビリティ・レポートとして、財務成果とは別に詳細に報告するのが通例です。
――企業自らが、そうした数値化しにくい価値をレポートで明文化するのは難しいのではないでしょうか。
とても難しいですね。統合報告書は基本的な考え方として、アウトプットとアウトカムを具体的に出すことを推奨しています。
アウトプットはいわば企業から出す商品やサービスです。アウトカムはその商品やサービスがどれくらい社会に対してインパクトを与えることができたかということです。
例えば、3Mなどの化学メーカーでは光を透過して熱を反射するウィンドウ・フィルムを販売しています。これをビルの窓に貼ってもらえれば、夏場のエアコンの電力量を抑えることができ、CO2の排出量を減らしたり、ガラス破損防止により安心感を提供したりして社会に良いインパクトを与えることができます。
ただし化学メーカーのアウトプットはフィルムでしかない。この商品がどれほど売れたかは数値化できますが、これを窓に貼ってくれた顧客が夏にエアコンの温度設定をどれくらい高くしたかとか、節電効果がどれくらいあったか、防犯の安心感のレベルまで把握することは難しいですね。こうした点で、統合報告書はまだ曖昧な部分があると言えます。
――統合報告書も完全なものではないのですね。報告書のスタイルも、統合報告書の他に、サステナビリティ・レポート、内閣府が推奨する経営デザインシートなどいろいろ存在します。
実際、企業も何を選ぶべきなのか混乱している面があるのです。非財務の価値は測るのが難しいので、どう見せたらいいのか難しい。世界的にも本来の目的に対して設定しきれていない。そこで私たちWICIジャパンは今、この混乱を整理することに取り組んでいます。
私たちはただ統合報告書を推進するのではなく、経営デザインシート、バランススコアカードなどとも比較しながら、企業側がどれを使えばいいのか、選択しやすいように、このツールはこういうことに向いている、このツールはこういう部分に長所と短所がある、といったところを明確化して、2019年中には発表したいと思っています。






