統合報告書は誰が作成すべきか
――機関投資家は統合報告書をどう評価しているのでしょうか。
私もアナリストに質問したことがあります。どの程度評価しているのか具体的には教えてもらえませんでしたが、「出していれば目を通しています」という回答です。ESG投資のために企業を評価する時に、アナリストが統合報告書を読んでいることは間違いありません。
ただ、そもそも統合報告書は投資家向けのIR資料ではありません。もちろん投資家にもアナリストにも読んでもらえますが、本来の目的は、従業員、取引先、顧客、地域住民などあらゆるステークホルダーに対して様々な自社の取り組みを伝え、理解してもらうためのコミュニケーションツールです。
――統合報告書は誰が作るべきなのでしょうか。
今、ほとんどの企業でIR部門のみが苦労して作成していると思います。しかし、「当社の技術開発部門の人材はここが強い」とか「独自の組織文化が競争優位を高めている」など、企業が暗黙知で持っている部分を、外に示すために形式知化しなければいけないので、本来はIR部門だけでは作れないものです。
さらに、求められている内容は、企業経営上での意思決定、企業内で保有している非財務資本や情報の関連性、ステークホルダーの包含性など、企業活動全般を包括するものです。つまり、外部報告のためだけに特別に作成するものではなく、経営トップはもちろん、経理、営業、マーケティング、人事、技術開発など、全部門の人材が協力しなければ作成できません。
それを実行すれば、会社は強くなります。すべてを会社の資本として評価するようになるからです。KPIを設定するなどして、社会トレンドと戦略の不一致などの経営戦略上の弱点、孤立した知的資本や重要情報、従業員の方向性などを把握し、改善することが可能になります。つまり、単に業務遂行型でやっている仕事が、戦略策定サポートに変わるわけです。
例えば、経理部門が業務遂行として仕事をしている場合は、PLやBSを作ったら終わりですが、戦略立案の一翼を担うとなれば、会社の目標に対して財務資産をどう活用すべきか、財務情報と戦略遂行の結合といった戦略的分析や提言をすることになります。人事部門でいえば、社員のモチベーションや生産性を測定して、それを高めるためにどうするか戦略的人事を行うようになります。
すべての活動を言語化し、今後の目標とともに社外に報告するわけですから、その結果、社内のすべての部門は戦略部門に変わっていくことになるのです。統合報告書の作成は、企業の競争力強化につながると考えています。
――経営が、短期から中長期志向に変わっていきますか。
その通りですし、それが狙いです。しかし、最近は資本コスト経営の導入により改善はされていますが、日本企業の最も弱い部分が財務業績を高めていくことですから、ジレンマがありますね。
統合報告書を作るからといって、非財務資産のアピールに逃げてはいけない。欧米企業のように財務の数字をきちっと高めた上で、そこに非財務の要素を加えて、KPIを立てて、経営していくということをしなければ強くはなれないし、社会から認められないでしょう。





