燃え尽き症候群は、年齢や業界を問わず誰でもなりうるが、特にリスクが増大している分野や業務がある。その一つが目的意識の強い仕事、つまり、本人が好きで情熱を感じている仕事だ。

『ジャーナル・オブ・パーソナリティ』誌に発表された研究によると、そのような仕事は、調和の取れた情熱より強迫的な情熱を生みやすく、それが葛藤を招き、やがて燃え尽きる。メイヨー・クリニックがまとめた燃え尽き症候群のリスク要因によると、6つのうち2つ──「仕事と自分が一体化しすぎて、仕事の生活と個人の生活のバランスが欠けている」「人を助ける専門職」──は、好きな仕事に情熱を燃やすという考え方に関連している。

 カナダのプラスティシティー研究所は、12の組織で働く3715人を対象に調査を実施した。目的意識の強い人はそうではない人に比べて、ストレスを顕著に感じやすく、幸福度やレジリエンス、自己効力感のスコアが低いことがわかった。

 同研究所の研究部長で組織行動論の博士号を持つデービッド・ホワイトサイドは、次のように語る。「自分の仕事に有意義なつながりを感じることは明らかに利点があるが、私たちのデータが示唆するように、目的意識の高い仕事が働く人の健康に与える複雑な問題は、現実であるにもかかわらず議論されていないことが多く、しかし長期的な燃え尽き症候群と関連があると考えられる」

 使命感に駆られたエグゼクティブや非営利団体で働く人々、教師や校長、看護師、医師は、燃え尽きるリスクが特に高い

 医師でパーマネンテ・フェデレーションの共同CEOエドワード・エリソンは、医師の燃え尽き症候群が及ぼす重大な悪影響について、米国内科学会紀要に次のように書いている。「医師の燃え尽き症候群に関連する影響として、不安や鬱病、不眠、感情と肉体の消耗、認知機能の集中力の低下だけでなく、全米で年間推定300~400人の医師がみずから命を絶っている」

 自殺率は一般の人より、男性医師が40%、女性医師は130%ときわめて高い。オランダのある研究によると、女性医師は男性医師より患者への共感が強く、燃え尽き症候群を経験する人が多く、その深刻度も高い。これは、女性医師の自殺率が危険なほど高い理由の一つではないかと考えられている。

 燃え尽き症候群が顕著なのは、介護やケアを提供する業種だけではない。リーダーが長時間労働と成功を結びつける場合や、精神的あるいは肉体的な不調でも出勤すべきだという暗黙の了解がある場合、製品中心で遠隔や内輪のやり取りが重視される営業現場で人間関係の構築が二の次になる場合も、孤独を助長する傾向がある。

 調和の取れた情熱と強迫的な情熱のバランスを取るために、エリソンはAI(人工知能)や自動化など新しい技術を自分が働く組織の医療記録管理に導入して、合理化を促進しようとしている。

 ただし、どんな業界でも技術の進歩には功罪があると、ポジティブ・デジタル・カルチャーのエイミー・ブランクソン創業者兼CEOは指摘する。

「現代の『常につながっている』文化」では、特に自分の仕事が大好きだという人は「デジタルの境界線を引くことに苦労する」。「全米の非雇用者の50%以上が、仕事で後れを取らないように午後11時以降もメールを確認しなければならないと感じている。その結果、燃え尽き症候群が増加して、仕事へのエンゲージメントは低下している」

 ある研究では調査対象の医師の70%が、医療健康分野の情報技術の利用に関連した燃え尽きのストレスを経験している。