世界中で政治の二極化が進んでいる。その影響は政治の世界のみならず、組織やチームにも大きな溝を生み出しており、マネジャーたちは対応を迫られている。集団の中に多様な視点が存在することで、調整に要する苦労は増えるものの、より創造性を発揮できることを示す研究は多い。筆者らが、オンライン百科事典ウィキペディアにおける記事制作のプロセスを分析した結果、政治的信条が二極化するチームほど質の高い生産活動を実現していることが示された。
米国でも、世界でも、政治の二極化が進んでいる。投票パターンも、世論調査も、ツイッターでのディスカッションも、人々が合意できることは減り、お互いをますます嫌いになっていることを示している。
2015年のある調査では、米国人は、子どもが自分と支持政党の異なる人と結婚するくらいなら、人種の異なる人と結婚するほうがましだと思っていることがわかった。米議会でも、政治家の投票行動や発言の二極化が進んだ結果、譲歩が減り、対立を乗り越えることがいっそう難しくなった。政治的なイデオロギーは、チームや組織でも大きな断層線を生み出しており、マネジャーたちは対応を迫られているが、それは容易ではないことがわかっている。
しかし長年の社会科学の研究では、多様な視点が存在することは、クリエイティブな企業やチームにとってプラスに働くことがわかっている。多様な視点が存在すると、クリエイティブなプロセスは不快になり、苦労が多くなるかもしれないが、問題解決策を探る領域が広がる。
私たちは過去の研究で、オンラインで共同購入された数百万冊の本を調べた結果、政治的な保守派とリベラル派では、科学と文学の分野でも購入する本が明確に異なることを発見した。こうなると、共通する「事実」を軸とする対話も難しくなるため、政治的分断を超えた話し合いは一段と難しくなる。しかし、そうした状況での政治的な対話は、より多くの争点について多様な視点を解き放つ可能性も高まる。
私たちは、こうした多様性の潜在的なプラス面が、実務において現実になるかどうどうかを調べた(その概要は2009年3月に『ネイチャー・ヒューマン・ビヘイビア誌』に掲載された)。そこで私たちが目を向けたのは、世界数十億人が消費する集合知プロダクト、すなわちオンライン百科事典「ウィキペディア」をつくるコラボレーション環境だ。