ウィキペディアの各記事(情報プロダクト)は、ボランティアの編集者チームによって作成されている。それは、とてつもない個人の努力と、グループとしての連携を伴うことが多い。
とりわけ意見が別れるトピック、たとえば人工妊娠中絶や最低賃金、あるいはドナルド・トランプ米大統領に関する記事をつくるとき、はたして政治的多様性は、質が高くバランスのとれた処理に貢献するのか、それとも邪魔するのか。さらに、どのコンテンツを含め、どのコンテンツを省き、どのようにまとめるかといったことを集団で決めるとき、政治的二極化はどのような影響を与えるのか。
私たちはまず、ウィキペディアの60万人以上のコントリビューター(貢献者)の支持政党を、リベラルな記事と保守的記事への貢献レベルに基づき推測した。米国のリベラリズムに関連する記事に頻繁に貢献する編集者は左寄りの意見を持ち、米国の保守主義と関連する記事に頻繁に貢献する編集者は右寄りの意見を持つと考えたのだ。
この仮説には反論もあった。ウィキペディア・コミュニティの多くは、実際はその反対ではないか考えていた。つまり、リベラルな編集者は保守的な記事に訂正を加え、保守的な編集者はリベラルな記事を訂正しているというのだ。しかし、ウィキペディアのアクティブな編集者たちを調査した結果、リベラルな記事と保守系記事への貢献度は、編集者の政治的属性や投票行動とかなり一致することがわかった。
このことを確認したうえで、私たちはウィキペディアの23万2000記事の各編集者チームの政治的多様性または二極化を測定し、イデオロギー的なばらつきが大きいグループほど「二極化」していると見なした。
さらに、この二極化レベルに基づき、記事の質に関するウィキペディアの内部評価(最低限の内容だけをカバーした「スタブ(stub)」から「目玉記事(featured article)」レベルまで)を予測してみたところ、政治的二極化が大きいチームほど、質の高い記事との関連性が強かった。この傾向は、特に政治的記事のときに強く見られたが、社会的な問題や科学に関する記事にも当てはまった。
こうした「二極化プレミアム」が生じる原因を理解するために、私たちは各記事の「ノートページ」を分析した。ここには、どんな情報を含めるかということや、どのような書き方にするかについて、編集者たちの議論が記録されている。人気のトピックのノートページは、重要な学術会議やプロダクト開発会議の議事録のようだ。
その内容を分析した結果、二極化したチームは、イデオロギー的に偏ったチームよりも議論が多い反面、対立の有害性は低いことがわかった。イデオロギー的に偏ったチームでは、一匹狼的な編集者が記事からバイアスを取り除こうとすると、感情的な議論が起きることがあった。また、二極化したチームは、類似コンテンツに穏やかに取り組む一方で、より多様な言葉や表現方法で話し合いをしていた。
さらに、二極化したチームのほうが頻繁に、「方針とガイドライン」に定められた規範に訴えていた。たとえば、当該記事は中立的な観点(NPOV)を表明すべきだとか、出典を明記する(CITE)べきだとか、利益相反行為(COI)を回避または開示するべきだといったことだ。こうした規範へのこだわりは、さほど規制されていない多くのオンラインコミュニティとは異なり、ウィキペディアがむき出しの感情や乱用を抑える助けになっている。調査では、二極化したチームに関与した編集者たちは、優れたプロダクトにつながった過酷な作業を語ってくれた。
私たちの研究の結果は驚くべきものだった。政治的二極化はネガティブなものと見られがちだが、多様で二極化した視点のパワーを解き放つと、質の高い生産活動にプラスになることがわかったのだ。