“さとなお”の愛称で知られるコミュニケーション・ディレクターの佐藤尚之氏は、近著『ファンベース』において時代的・社会的状況が、自社の製品やサービスのファンを支持母体として中長期的に売り上げや価値を上げていく「ファンベース」マーケティングの重要性を高めていると説いた。その佐藤氏に、デジタル化時代の顧客とのコミュニケーションのあり方を聞いた。

「ホモフィリー」が強まり
一方的な情報発信では伝わらない

――インターネットやSNSの普及によって、企業と消費者のコミュニケーションはどのように変わったとお考えですか。

佐藤 2005年ごろを境に情報の流通量が圧倒的に増えたことで、消費者は情報洪水にさらされるようになりました。調査会社のIDCは2011年の調査で、2020年に世界の情報量は45ゼタバイトになると予測しています。1ゼタバイトは世界中の砂浜の砂の数に等しいと言われています。こうした情報洪水のなかで、企業が一方的に情報を発信しても、情報が多すぎて生活者に届くのは非常に難しくなっています。

佐藤尚之(さとう・なおゆき) コミュニケーション・ディレクター。株式会社ツナグおよび株式会社4th代表。電通でコピーライター、CMプランナー、ウェブ・ディレクターを経て、コミュニケーション・ディレクターとして活躍後、2011年に独立。著書に『明日のプランニング』(講談社現代新書)、『ファンベース』(ちくま新書)など。

 かたや、SNSが発達したことで、生活者同士のつながりやコミュニティをベースとして、ものごとが伝わっていくようになりました。つまり、SNSによって口コミが顕在化したのです。

 人が価値観の似た人を求める傾向を「ホモフィリー」と呼びます。ホモは同質性、フィリーは愛するという意味で、平たく言えば「類は友を呼ぶ」「似たもの同士」みたいなことです。SNSなどの活用はそうした傾向の最たるもので、価値観の似た者同士でつながって「いいね!」を押し合う。そして、いいか悪いかは別にして、ニュースも大手メディアが一方的に発信するものより、信頼する身近な人から聞いたことのほうを信用する傾向が強まっています。

 世の中には、情報も商品もあまりにもあふれすぎている。何が自分にぴったりなのかがわからない。でも、価値観の似た人が薦めたもの、身近な人からの口コミなら自分も買ってみようと思うわけです。

――そうした時代に、企業は顧客とのコミュニケーションをどのように再設計すべきなのでしょうか。

佐藤 日本では平均で毎年100万人ずつ人口が減ると同時に、超高齢化社会に突入しています。今後は新規顧客の開拓で成長をドライブしていくことが、どんどん難しくなります。このようにマーケットが縮小している状況下では、自社の商品を購入したり、使ってくれたりしているファンをベースにして、中長期的に売り上げや価値を高めていく「ファンベース」マーケティングに重点を置くべきだと私は主張しています。

 「パレートの法則」として有名ですが、統計的に商品やサービスの売り上げは、おおむね上位20%の顧客が全体の80%を占めています。最優先すべきなのは、自社のファンである上位2割のお得意さまだということです。ですから、2割のファンに伝わるようにコミュニケーションを再設計すべきだと思います。