データにもとづいたデジタルマーケティングが主流となりつつある今、企業広告の分野ではどのようなアプローチが有効か。SNSなどの新メディアの活用について、早稲田大学商学学術院の恩藏直人教授に聞く。

早稲田大学で始まっている
SNS活用広報戦略

 私は早稲田大学の広報担当理事兼広報室長を務めることで、大学のファンづくりやブランド構築に取り組んできた。早稲田大学でも企業と同様に、FacebookやInstagram、Twitter、YouTubeなどのいわゆるSNSを活用した広報戦略についての本格的な実施段階に入っている。

恩藏直人(おんぞう・なおと) 早稲田大学商学学術院教授。同大学常任理事(広報担当)。早稲田大学商学部卒業後、同大学大学院商学研究科へ進学。同大学商学部専任講師、同助教授をへて、96年教授に就任。専門はマーケティング戦略。著作に『コモディティ化市場のマーケティング論理』(有斐閣)、『マーケティングに強くなる』(ちくま新書)など多数。

 そこでは情報を、学生、父母、校友、社会、知識層などさまざまなターゲット別に発信するための個別案が練られ、かつどのようなアカウント名で発信するかも検討されている。つまり「早稲田大学」として発信するのか、「キャラクターである早稲田ベア」や「広報室長などの担当者」を設定して発信するのか、といった具合だ。

 さらには、入試前後の受験生を対象にした情報、入学後の学生を対象にした情報等々、さまざまなターゲットと狙いを細分化、マトリックス化して具体案を決めていく。これは早稲田大学の広報を、デジタルと密接に関連付けるデジタルトランスフォーメーションの試みとも言える。早稲田大学の「組織としての価値」をデジタルを通じて伝達しようというわけである。企業はもちろん、大学などのあらゆる組織が、デジタルを切り離してマーケティングを語ることはできなくなっている。

 どのような時代においても、マーケティングの果たすべき役割は変わらない。「価値の創造」「価値の伝達」「価値の説得」が主なテーマである。

 ただし現在は、いずれにおいてもデジタル技術が盛り込まれ、さらにSNSに象徴されるデジタルマーケティングの活用は、顧客志向というマーケティングの本質により迫り、マーケティングを進化させる力となっているように感じる。

 マーケティングにおける顧客志向の浸透を4つの「P」(Product〈製品〉、Price〈価格〉、Place〈流通〉、Promotion〈プロモーション〉)に分けてみると、まず製品領域で進み、価格領域がそれに続いた。そして今日、チャネルやプロモーション(コミュニケーション)が顧客志向に向けて大きく動いている。それを実現させているのが、SNSを中心とするデジタル技術である。学術論文や書籍などを見ても、顧客志向が盛んに論じられてきたのは、製品領域、価格領域、そしてチャネルやコミュニケーション領域の順のようである。