――上位2割のファンに対して、企業は具体的にどのようにアプローチすればいいのでしょうか。
佐藤 まずはファンの声を傾聴することです。企業はヒット商品があっても、具体的に商品の何が支持されているのかを正確に把握していません。さらに売り上げを増やそうとして、買っていない人に「なぜ買わないのか」を聞き、その結果、既存のファンに支持されていた部分を損なうような改悪をしてしまうこともあります。
ただ、ファンの声を傾聴するといっても、人は自分が好きだと思っている商品やサービスの特徴をなかなか言語化できないものです。調査しても言語化された本音は出てこないんですね。ですから、ファンに集まってもらい、ファン同士で話し合う「ファンミーティング」の実施を私は推奨しています。ファン同士が集まると、自分はこの商品のここが好き、ああそうだね、ここがいいよね、というふうにどこが好きなのかということが、会話を通じて言語化されていくのです。その声を丁寧にすくい上げることです。
ここが好き、こんなふうに好きというのは、「情緒価値」です。企業は自社商品の機能を伝えたがるものですが、「機能価値」はすぐに他社にコピーされてしまいます。しかし、情緒価値は簡単にコピーできるものではありません。しかも、情緒価値は口コミによってより高まりやすいという特徴があります。
――写真・動画共有SNSのInstagramでは、趣味や関心をベースにコミュニティが形成されていますが、そうしたメディアは情緒価値が一段と伝わりやすそうですね。
佐藤 ファンは自分の友人に対して、自分が好きなものを薦めたいと思うものです。しかし、何の前振りもなく、いきなり人に薦めるのは不自然です。SNS上や仲間内で話題になっていれば、周りの人に話しやすいし、「実は自分もこのブランドのここが好きなんだ」と薦めやすい。そのように、話題のきっかけをつくるようなコミュニケーションデザインを考えるべきでしょう。
例えば、写真や動画は一人で見ているよりも、家族や友人と見たほうが盛り上がります。Instagramの画像を家族や友だちと見せ合いながら、楽しく会話した経験は多くの人が盛っているはずです。つまり、Instagramはネットだけで完結するのではなく、リアルのコミュニケーションとも相乗効果が非常に高いのです。そうした面からも、情緒価値が伝わりやすいメディアと言っていいでしょう。
また、情緒価値を伝えるためには、商品開発の苦労話やブランドストーリーなどを発信することも効果的です。ストーリーは情緒価値に訴えやすく、ファンはその会社や商品の背景にあるストーリーを好むからです。アップルのファンは、創業者であるスティーブ・ジョブズの苦労話や、製品デザインへの並々ならぬこだわりなどをみんな知っており、そういうストーリー性がアップル製品の情緒価値を一段と高めています。
ストーリーによって情緒価値に訴えかける場合、Instagramのように写真や映像を交えたコンテンツのほうが、より価値が伝わりやすくなります。多くの熱狂的なファンを持つことで知られる某アウトドア用品メーカーが毎年発行している商品カタログは、非常に洗練されたデザインで知られていますが、そのカタログには写真を効果的に使ったブランドヒストリーも掲載されています。アナログコンテンツでもデジタルコンテンツでも、ストーリーを伝える場合はビジュアル要素がとても重要になるのです。