●スキル
スキルは、働く女性にとってチャンスを切り拓くカギとなる。
我々は、調査した成熟経済国6ヵ国中5ヵ国において、大学以上の学位を必要とする仕事についてのみ、労働の正味需要がプラスになると予測している。世界経済フォーラムによれば、西ヨーロッパでは、平均で79.8%の女性が高等教育の資格を有しているのに対し、男性では66.7%である。
しかし女性は、スキルの需要が高まると想定される分野を卒業していないことが不安材料だ。たとえば、英国の公式な統計によれば、科学系の科目を履修した全日制の1学年目の女子学生はわずか37%であったのに対し、男子学生では48%であった。
新興経済国では、多くの女性(インドでは雇用されている女性の60%超)が生計を農業に依存しており、あまり教育を受けておらず、スキルの幅も狭い。彼女たちは、教育とスキルの双方でステップアップしない限り、他で働き口を見つけるのが困難になるだろう。調査した新興経済国4ヵ国のうち3ヵ国では、中等教育を必要とする職業の正味の労働需要が強力に高まると思われる。
これらのニーズに対処するために、学校と大学、政府、および民間の4部門は、女性がSTEMと呼ばれる科学・技術・工学・数学の分野を履修し追求するよう、奨励する必要がある。往々にして、前述の4部門が協働する必要もあるだろう。
いったん仕事に従事したら、女性(と男性)はたえずスキルを向上する必要がある。この面では、雇用主がより尽力する必要がある。
ある研究によれば、2018年には雇用主の54%が、みずからの組織の既存の労働力に、スキルギャップを埋めるためのさらなる訓練・能力開発の機会を提供していた。2014年のわずか20%に比べると増えているものの、もっと増加する必要がある。
デジタル学習プラットフォームへの官民の投資は、女性に新たな道を拓くものと思われる。政府は、女性が訓練を受けるよう助成金を提供することで、力になることができる。
●動きやすさ
女性は男性よりも職業を変えることが困難な場合が少なくない。
女性は男性ほど身軽に動けないことが多い。男性以上に仕事と家庭を両立させる必要があるため、スキル向上に必要な時間が制限され、仕事のために移動可能な距離にも影響すると思われるからだ。
テクノロジーは、女性に新たなフレキシビリティをもたらすことができる。たとえば、在宅勤務、店舗の事業ではなくeコマースに従事する、などだ。
だが企業は、よりいっそうフレキシブルな勤務の選択肢を広げる必要がある。2018年に実施された雇用主に関する前述の調査によれば、フレキシブルな、あるいは遠隔による勤務の選択肢を提供している雇用主は、わずか23%であった。
また、女性は男性よりも人脈の幅が狭い傾向にある。このことは、新たな雇用チャンスに気づき、手に入れる能力に影響を及ぼす可能性がある。
自動化に直面して数百万人もの女性が職業を変える必要に迫られることを考えると、今日のきわめてジェンダー格差の大きい労働市場と、その背後にある職業上の男女の役割の固定観念は、まさしく障壁である。最近の米国のある研究によれば、女性による部門・職業の選択が、ジェンダー間の賃金格差の原因の50%超を占めているという。
コンピュータ・サイエンスと看護という、雇用が拡大する可能性の高い2つの職種について考えてみよう。
米国では、コンピュータ・サイエンス従事者に占める女性の割合は、1980年代と1990年代に40%にまで上昇したが、その後は、わずか25%程度にまで低下した。同部門におけるジェンダーの役割の固定観念と、女性のメンターの不足がその一因である。
米国における男性看護師の割合は、1970年の約3%から2000年には約11%へと増加したが、その後2018年までに、たったの1%ポイント増加しただけであった。ジェンダーの役割の固定観念が、この職業でもキャリアを追求するのを遠ざけていると男性たちはいう。
このような障壁に対処しない限りは、女性も男性もジェンダーを隔てる線を超えて、異なる職種に飛び込むことは困難だろう。
●テクノロジー
テクノロジーは、女性が直面する障壁の多くを打ち砕くことができる。
新たな経済的チャンスを拓き、女性が労働力に参加するのを助け、そして自動化の時代には、シフトを推し進めることを可能としてくれる。たとえば、いま女性は、新たな、よりフレキシブルな働き方を可能とするテクノロジーを利用して、「ギグエコノミー」として一般に知られる仕事に個人で従事している。
しかし女性は、テクノロジーへのアクセス、テクノロジーを利用するスキル、テクノロジー創出への参加において、後れを取っている。世界的に、男性は女性よりもインターネットにアクセスする可能性が33%高く、高等教育のSTEM系の学生に占める女性の割合はわずか35%である。多くの成熟経済国では、テクノロジー系労働者に占める女性の割合は20%未満である。OECD(経済協力開発機構)によれば、女性労働者のわずか1.4%が、情報・コンピュータ技術(ICT)システムの開発・維持管理・運用の仕事に従事しているのに対し、男性労働者の場合には5.5%である。
ここでもまた、企業は一役買うことができる。たとえば、非営利団体や大学と手を結んで、テクノロジー分野への女性の進出を後押しし、インターンシップを提供したり、太いパイプラインを構築したりするのだ。
ベンチャーキャピタル業界の場合には、現状からシフトして、テクノロジー系の起業家を含めた女性起業家の卵が、必要とする資本にアクセスできるようにしなければならない。2018年には、米国におけるベンチャーキャピタル投資の総額の85%を全員男性の創設チームが受け取ったのに対し、全員女性のチームが受け取ったのはたった2%で、混成チームもわずか13%であったからだ。
自動化の時代は、女性の経済的向上に向けた新たなチャンスをもたらしてくれる。だが、彼女たちは、長きにわたって解決されない難題の上にさらに積み重なった、新たな難題にも直面している。女性のポテンシャルを十分に活用するために、企業と政府はともに、一致した創造的な解決策を通じて、彼女たちが来るべき変化に備えられるようにすべきである。
HBR.org原文:Will Automation Improve Work for Women - or Make It Worse? July 03, 2019.
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