●事業戦略と連動したCEOスコアカードをつくる

 次期CEOが取り組まねばならない課題と機会は、企業によってさまざまに異なるはずだ。しかし、CEO職の要件一覧にはたいてい、似たような一連のありふれた特性が挙げられている。たとえば「強いリーダー」「危機感を持っている」「戦略的である」などだ。

 候補者らを比較する前に、必ずやっておくべきことがある。次期CEOに求められる、最も優先すべき5~7つの成果目標と、そのためのカギとなるリーダーシップ能力を、具体的なビジネス状況・組織状況に即した形で明確に打ち出すのだ。

 取締役会がどれほど優秀でも、この作業は簡単にはいかないことが多い。不確実性のなかで、難しい戦略的トレードオフをめぐって足並みを揃える必要があるからだ。加えて、次期CEOに求められる達成事項を、明確かつ測定可能な形で、リーダーとしての行動要件・能力要件へと変換するには、役員室でいつも交わされるような会話をはるかに超えたレベルの分析的なプロセスが必要となる。

 ●CEO候補となるリーダー層を、より広く深い視野で見る

 ほとんどの取締役会は、現職CEOによって特定された最終候補者リストを重視し、それ以外のリーダーに関しては、慎重に取捨選択された評価のみにしか接しない。また、取締役会メンバーが長期間にわたって、さまざまな幹部と知り合っている場合でも、その親近感はしばしば、取締役に「誤った安心感」を与える。候補者の将来のパフォーマンスを予測するための信頼できるデータに取締役がアクセスできない状況では、その誤解はいっそう顕著になる。

 筆者らは次のような場面を見てきた。社用ジェット機内の会話の中で、適性に欠ける候補者が過度に持ち上げられる。夕食の席で、非常に有能な幹部について誤解に基づく言葉が発せられ、疑念が植え付けられる――。取締役会メンバーが、候補者について表面的にしか知らないのに、その経験に基づいて、ひとたび意見を形成してしまうと、その意見はえてして変わりにくいものだ。

 こうした事態を防ぐための、後継者育成計画のベストプラクティスの一つは、幅広い候補者リスト(十数人に及ぶことも多々ある)を客観的に検証することだ。CEO交代が見込まれる5年前からこれを開始し、毎年更新しよう。

 筆者らのCEOゲノム調査によれば、CEOとして成功しやすいリーダーは、果敢な決断・行動を見せる、適応力がある、信頼できる、好感度よりも成果を優先する、という特性の持ち主である。交代が見込まれる時期のかなり前から、これらの特性の検証と育成を始めるとよいだろう。

 ●信頼できる扇動者を利用する

 多くの研究で示されているが、人材の多様性を適切な形で活かせば、企業の業績向上につなげることができる。CEO承継に関しては、取締役会における考え方、背景・経歴、性格が多様であれば、組織にとってプラスとなる。集団浅慮が回避され、視野の幅が広がるからだ。

 質の高い取締役会の形成には、個々の取締役の力量と視野が問われる。合わせて、生産的な議論と効果的な意思決定を可能にするための、周到な行動規範も必要だ。たとえば、ある取締役会会長はメンバーらに対し、後継候補の議論を始める前に、自分たちが以前から持っているバイアスと嗜好について検証するよう促していた。

 承継に伴う複雑な力学とリスクを鑑み、CEO交代の3~5年前に、外部の専門家を関与させる取締役会が増えている。客観的な評価、潜在候補者の育成、必要な議論の活性化、外部のベストプラクティスの取り込みなどを求めてのことだ。

 本稿が提案する承継プロセス向上策は、違和感を伴い、時間を要するかもしれない。しかし、ふさわしい候補者が「無難な」候補者の影に隠れてしまわないよう万全を期す一助となる。ある後継者育成委員会の会長は最近、取締役会にこう忠告した。

「我々はこの数年間、承継のプロセスを円滑に運ぶために大変な努力をしてきました。株主の皆さんが、その結果に判定を下すことになるという事実を、ここで自分たちにもう一度言い聞かせるべきでしょう。我々は、この会社の経営に最適な人物を選んだのかどうか、を自問しましょう。その選択に至るまでの議論に、我々がどれだけ満足したか、ではなく」

 まさに、その通りである。

HBR.org原文:When the Heir Apparent Is the Wrong Choice for CEO, July 10, 2019.


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エレナ・リトキナ・ボテロ(Elena Lytkina Botelho)
CEOと取締役会を支援するghSMARTの共同経営者。CEOゲノム・プロジェクトの共同リーダー。『ニューヨーク・タイムズ』紙、『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙でベストセラーランクに入った共著書、『最速でトップに駆け上がる人は何が違うのか?』がある。

ショーマ・チャタージー・ハイデン(Shoma Chatterjee Hayden)
ghSMARTのリーダーシップ開発・コーチング部門リーダー。資産運用、金融サービス、未公開株式投資に携わる企業幹部を主な対象に、組織内での役割の増大に伴うリーダーシップのインパクト拡大を支援する。