次期CEOの選出は、取締役会にとって最も重要な仕事の一つである。多くの企業が後継者育成計画に多大なリソースを注いでいるものの、CEOにふさわしい人物ではなく、無難な人や選びやすい人を選出する傾向が高い。筆者らの調査により、その主な3つの理由が判明した。同時に、最適な候補を選ぶための3つの施策を提示する。
大企業は、後継者育成計画(サクセッション・プランニング)に多大な注意とリソースを注ぐ。にもかかわらず。PwCの調査によれば、企業の経営トップに誤った人物が選ばれることで、毎年1120億ドルの株主価値が毀損されているという。
筆者らは、多岐にわたる業界でCEO承継の支援を通して、次のことを発見した。当社ghSMARTが過去2年間で支援した110の承継事例の過半数において、「この人ならば確実」とされた人選は、CEO職で最も成功する可能性が高い候補ではなかったのである。
全米取締役協会が最近実施したコーポレートガバナンスに関する調査では、回答した取締役のほぼ4分の3が、後継者育成計画における最大の課題は「CEO職への人材パイプラインの維持」だとしている。しかし筆者らの知見によれば、秩序立った承継プロセスを有し、最も尊敬される企業においてさえ、ふさわしい後継候補が最終選考にすら残らない場合がある。「無難な人」や「選ばれやすい人」の存在によって、影が薄れてしまうのだ。
筆者らは、この事態が生じる3つの理由を特定した。
●有力視される候補者は、後押しを得る
秩序立った承継プロセスによって、評判のよいCEOの交代が行われる際、その現職CEOは後継者の人選に過度の影響力を持つことがよくある。この状況でトップに就く後継者は、現CEOの方針を着実に実行してきた、忠実なる補佐役である場合が多い。
現職CEOは経営陣について知り尽くしている、という見方は当然ではある。しかし、同時に留意すべき重要な点は、どれほど優れたCEOでも――忠誠に応えようという当人の誠意ゆえに――信頼する相手の能力を過大評価する可能性があるということだ。
一例として、ある大手工業企業の会長兼CEOは、「常に物事を安心して任せられる相手であったCFOに、バトンを渡さねばならない」という義務感を覚えていた、と筆者らに語った。一部の上級幹部らは、後継者に任命されたこの人物はCEO職にふさわしくないという懸念を抱いていた。だが彼らは、承継人事に横槍を入れることを嫌った。現CEOと取締役会が、後継者を強く後押ししていたからだ。
不幸なことに、その新任CEOは、収益と成長の維持に苦労することになった。彼は前任者の方針を懸命に実行したのだが、供給ショックおよび非伝統的な競合他社を前にして果敢に動くために必要な、戦略的重心、活力、創造性を欠いていたのである。
●好感度が過大評価される
筆者らが2600人のリーダーを対象に10年間実施したCEOゲノム・プロジェクトという調査によれば、会社での出世に寄与する「ように見える」特性と、実際にCEO職で成果を上げるために必要な特性は、しばしば異なっている。
これは、シカゴ大学のスティーブン・キャプランの発見とも一致する。その研究結果によると、好感度の高い幹部は、たとえ業績が他者より優れていなくても、最高職に選ばれやすい。
一方、果敢な決断・行動を見せる度合いが高い幹部は、CEOに昇進する傾向が12倍高いが、昇進の過程で他者を苛立たせる傾向も高いことが筆者らの調査で判明している。このような候補者が業績考課で下されがちな評価として、「会社視点が足りない」「他者との協調性に欠ける」「もっと穏便なアプローチが必要」などがある。
●無難な人選をしたい、という思いを抑えるのは難しい
筆者らが支援する企業の多くは、革新的な戦略方針を持っている。ところが、その取締役会は次期CEOを選ぶというプレッシャーを前にすると、既存の型を破ろうとする候補を無視し、無難に思える人を選ぶ。それが残念な結果につながるのだ。
このような取締役会が優先しがちな候補は、取締役自身および現経営陣とよく似た背景・経歴の持ち主である。その結果、人材の多様性と経営成果の両方が損なわれる。たとえば筆者らの調査では、女性はCEO職に選ばれる傾向が28%低く、言葉に訛りがある(英語が完全に流暢ではない)人が選ばれる傾向は12倍低い。
以上に述べてきた、大きな代償を伴う落とし穴を回避し、最適な候補を選ぶ確率を高めるために、3つの施策を提案したい。