矢面に立つX世代
X世代は、ミレニアル世代とベビーブーマー世代の同等職者に比べ、昇進という恩恵を受ける頻度が少ないにもかかわらず、仕事量の面で矢面に立たされている。X世代のリーダーは、初級および中級の管理職における直属の部下の人数は平均7人であり、同等の管理職にあるミレニアル世代の場合は平均5人である。
また、X世代のリーダーは雇用主への忠実度が高く、これは組織ナレッジの保持という点で重要な貢献につながっている。キャリアアップのために転職を検討している、と答えたX世代は37%のみであり、ミレニアル世代のリーダーより5%ポイント低い。この両世代の違いは初級管理職においてはさらに顕著であり、現場・前線のリーダーのうち、キャリアアップのための転職を検討中と答えたX世代は34%、ミレニアル世代は43%であった。
そして、おそらく最も重要な点は、X世代が「デジタル格差の解消」という、必須かつ見過ごされがちな貢献を果たしていることだろう。最もデジタルに長けているのはミレニアル世代と思われがちだが、X世代のリーダーもデジタル能力に関しては同等の自信を持っているのだ。
一方でX世代は、伝統的なリーダーシップ能力――かつてなく重要となっている――にも秀でており、「共感力の発揮」や「実行を重視する姿勢」などは、同等職のベビーブーマー世代と同じ水準にある。
苛立ちは限界に近づいている
企業が昇進という恩恵を与えずにX世代への依存を強めるなか、彼らは苛立っている。
現在、社内での自分の昇進度に納得している、と感じているミレニアル世代は65%、かたやX世代は58%にとどまる。これまでは会社に忠実であったX世代だが、上級管理職のX世代リーダーたちの間では、(幹部職に昇進できないという)苛立ちは限界点に近づいており、キャリアアップのための転職を検討中の人は40%に達している。加えて、X世代の上級管理職の5人に1人(18%)は、転職の意思は過去1年間で強くなったと答えており、これは他の2つの世代よりも格段に高い割合である。
同じ中級管理職、さらには幹部のポストをめぐってミレニアル世代とX世代が競争を始めると、企業は後者をつなぎ留めておくためにいっそう努力しなければ、最も優れたリーダーを多く失うおそれがある。X世代のリーダーの保持・育成に向け、企業が実践できる3つの対策を以下に挙げよう。
●個々人に見合った学習と能力開発を可能にする
どの世代のリーダーにとっても、最も望ましい学習法は、各人の役割と能力目標にもとづいて選択され、パーソナライズ(個人化)された活動である。多世代が働く職場では、パーソナライズは不可欠だ。なぜなら個々人の能力と要強化点は、同じ世代内でさえさまざまに異なるからである。各人の能力開発に何が最適なのかを見極めることは、決定的に重要である。
●外部からの助言をもっと得られるようにする
X世代のリーダーは概して、現在の勤務先にとどまることを望んでいながら、社外の助言者の知識・見解を強く欲していると明白に回答している。実際、X世代のリーダーのうち、外部者によるコーチングをもっと経験したい人は67%、社外で能力開発をしたい人は57%に上った。
企業はX世代のリーダーに、社外の専門家組織や業界会議、その他のグループへの参加を促すために投資すべきである。指導・助言を与えてくれて、仕事への情熱を再燃させてくれる、同業者やメンターとの関係を育めるよう支援しよう。
●採用と昇進のプロセスにデータを活用し、客観性を付与する
多くの組織では、採用と昇進の決定に際し、候補者の職務適性をマネジャーの直感で判断している。そこでは無意識のバイアスが作用する。たとえば、あるマネジャーは、デジタルマーケティングのマネジャー職にはミレニアル世代の候補者のほうが適していると感じ、X世代のリーダーを検討対象に入れないかもしれない。マネジャーの直感のみに頼るよりも、人材のリーダーシップの能力と潜在力を査定することで、その職に適した能力の持ち主を客観的に特定できるようになる。
世代にまつわる偏見に抗い続け、多世代のリーダーたちに能力開発と助言を得る機会を促進すれば、組織の人材パイプラインをより継続的で健全にできるはずだ。これに成功する組織は、今後の労働市場にZ世代が増えていくなか、職場での関心が否応なく新人へと偏る事態にも、うまく備えることができるだろう。
HBR.org原文:Are Companies About to Have a Gen X Retention Problem? July 26, 2019.
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ステファニー・ニール(Stephanie Neal)
リーダーシップの世界的なコンサルティング会社DDIのアナリティクス・行動研究センター(CABER)でディレクターを務める。